逃げるし恥だし役立たず

完全なる報復の逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

完全なる報復(2009年製作の映画)
3.5
妻子を惨殺されて司法にも裏切られた男が周到な計画に基づき、自ら復讐に手を染める。自分が信じる其々の正義に基づき火花を散らす二人の男の壮絶な闘いを描く、司法の穴を突く見事なストーリーと予測不能な展開に熱中させられる驚愕のクライム・サスペンス。
米国フィラデルフィアの自宅で突然の二人組の強盗に妻子を殺されたクライド・シェルトン(ジェラルド・バトラー)は犯人の極刑を望むが、事件の担当検事のニック・ライス(ジェイミー・フォックス)の勝手な司法取引によって犯人は極刑を免れる。其の十年後の従犯エイムスの死刑執行時に予期せぬ事態が発生、更に主犯ダービーが惨殺され、ニック・ライスはクライド・シェルトンを容疑者として逮捕するが、クライド・シェルトンの標的は腐敗した司法制度であり、犯人は元より弁護人レイノルズやバーチ判事やキャントレル地方検事(ブルース・マッギル)など事件関係者に対して刑務所の中から自らの手で制裁を下していく…
強盗に襲われるクライド・シェルトン家や収監される刑務所・死刑台や川原沿いの倉庫や判事室や検事局駐車場や埋葬墓地や市庁舎内会議室・ラストのナパーム炎や演奏会場などのシーンや演出も見事に、各々の復讐までの展開も早いテンポで良くできた脚本で、最後まで緊張感が途切れずに楽しめる。不可思議かつ緻密で正確な復讐もシンプルな方が成功したのではないかと思うが、まあ其れでは映画にならず、原題"Law Abiding Citizen=法律に従う市民"から犯人への報復より法律自体への報復をテーマにしている為、クライド・シェルトンの復讐の手法は妥当であろう。「復讐なんて虚しいだけ」なんて云う台詞なんかは陳腐なヒューマニズムの戯言であり、完膚なきまでの復讐こそ気分爽快、ストレス解消、且つ自己の尊厳を回復させるものはないと言わんばかりに最初から最後まで躊躇なく徹底している点は潔い。
強盗犯二人や直接司法取引をした弁護士や判事や担当検事ニック・ライス達を標的にするのは理解出来るし、前半はクライド・シェルトンの無念の思いからか殺人劇には意外にも爽快感がある。ただニックの部下のサラ・ローウェル(レスリー・ビブ)達や無関係な同房囚人(意外にも良いヤツだが)などの余計な人間を戸惑も無く殺すのはやりすぎで、果ては市長以下の重要人物の殺害計画にまでに至る只のテロリストに成り果てて、既に此の物語は破綻してしまっている。其の違和感からかクライドの苦悩や葛藤や決意・悲壮感などの造形や司法制度を破壊すると云う意志がブレてしまい、報復の域を超えた手当たり次第な大量殺人鬼となり共感も同情できなくなってしまった。無関係な人間に無意味な殺人は行わないという姿勢を貫いてこそが復讐の美学なのだが、ラストも迷いが生じたのか尻すぼみとなり中途半端で、其の辺が残念であった。
相手の心理をつく緻密な計画による遠隔殺人の名人と云う触込みから、刑務所の独房から犯した連続殺人の殺害方法や共犯者について劇中ずっと首を傾げて考えていたのだが、トリックが今時まさかの〇〇〇〇と分かった時は流石にズッコケた…(笑)
まあ、ジェラルド・バトラーが一番最初に報復しなくちゃいけなかったのは実行犯ダービー、次は有罪率96%を堅持するために司法取引を持ちかけた司法検事のジェイミー・フォックス、更には違法証拠収集で証拠不採用にした警察関係者の順番だと思うのだが…