がちゃん

暴走機関車のがちゃんのレビュー・感想・評価

暴走機関車(1985年製作の映画)
3.9
黒澤明がハリウッドにて企画、原案、脚本まで書き上げたが、制作陣とのトラブルでお蔵入りになった企画を掘り返して、当時ソ連のアンドレイ・コルチャフスキー監督・ジョルジェ・ミリチェヴィクポール・ジンデル/エドワード・バンカーが脚本を練り直して公開されたサスペンスアクション作品です。

黒澤の他、菊島隆三・小国英雄が協力したオリジナルは、かなりの部分で改変(黒澤は改悪といった)されて制作されましたが、なかなかの見どころのある作品になっていると感じました。

序盤の刑務所での暴動シーンは、今までもよく見たシーンで特に新しい面はありませんが、幾度も脱獄を繰り返して独房に入れられていたジョン・ボイトがチンピラボクサーの囚人を相棒にして下水道から脱走。

ここまでもよくあるシーンだなと思っていましたが、いよいよ二人が脱走のために機関車に乗り込んだところから、ド迫力の逃走劇が始まります。

アラスカを疾走する機関車で逃走を図る二人だったが、ワンマンで操縦していた機関士が心臓マヒで倒れてしまい、機関車はスピードを上げながらノンストップで暴走を始める。

機関車の管制室で、上層部とエンジニアが対立する構図がありふれていて感心できないが、それでも必死になって機関車を止めようとするエンジニアの心情はよくわかるようになっている。

機関車に取り残された二人は、いろんな方法で減速を試みようとするが、機関車の形状と寒さによりうまくいかない。
そこに、ジョン・ボイトを再度捕らえようとする刑務所長の空からの追跡が加わる。

この暴走する列車の描写が抜群の迫力。
吹雪の中疾走するのですが、監督がソ連の監督だからか場面は終始抑えた色調の画面で、機関車の重厚感がとてもよく表現されている。

走行中の機関車から外に出て連結器を外そうとする描写など、見事なカメラワークで手に汗を握ります。

雪で白く霞んだ山間を抜けて暴走する機関車を遠景や空撮でとらえた場面など白眉。
撮影隊がいい仕事しています。

途中、三人目の乗客として女性が登場し、恋愛描写っぽいところがあるのですが、それはいらなかったと個人的には思います。
テンポが一段落ちてしまうような感じがしました。

しかし、吹雪の中、スタッフ・キャストの苦労は大変なものだと想像します。
決してCGでは味わうことのできない本当の活劇がそこにありました。

いよいよ制御がきかなくなった機関車でのジョン・ボイトと刑務所長の対決。
ちょっと気取ったクライマックスもよかったですね。

当初の予定通り、黒澤明が監督していたらどんな作品になったのだろうか。
どうしても考えてしまいますね。

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