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野性の証明のMOCOのレビュー・感想・評価

野性の証明(1978年製作の映画)
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「お父さん、怖いよ。何か来るよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ」

 岩手県下閉伊郡柿の木村で、僅か5世帯13人の住人全員が斧で惨殺される事件が起きます。
 当初13人の村人が被害者と思われたのですが若い女性一人はハイキングで訪れた越智美佐子であることが発覚し、長井頼子という女の子が行方不明になっていることがわかります。

 捜査のために派遣された捜査一課北野と地元警察はエルウィニア菌というバクテリアが原因の軟腐病(なんぷびょう)で腐敗した白菜やキャベツの異様な匂いのする畑で捜査をはじめます。

 長井頼子は数日後別の村で発見されるのですが事件のショックから記憶障害があり「青い服の男」と一緒にいたことがわかるくらいで、犯人を特定することはできず捜査は暗礁に乗り上げます。
 
 2年後、某県の羽代市に味沢という男が現れ10才位の女の子と暮らし始めます。味沢はしばらくすると地元の新聞社に勤める朋子という女性に接触をします。朋子は越智美佐子の妹なのです。

 2年前味沢は自衛隊の特殊工作隊に所属しており、下山に何日もかかる岩手県のある山に、訓練のため僅か3日分の食料を与えられてヘリコプターから投下されました。
 人との接触は禁じられ、食料が尽きると自給自足で調達しなければならない過酷な訓練は、そのまま行方不明になることもあるのです。
 味沢は何日も木の実すら調達ができずもうろうとしているところで若い女性ハイカーに出会ってしまいます。
 突然の遭遇に女性ハイカーは驚き怯えるのですが弱っている味沢に食料を与えてくれます。
 味沢は野獣のように鍛え上げられた他の隊員の餌食になってはならないと近くの村に身を寄せ数日はハイキングを中止するように勧めたのですが、村まで同行しなかったことを後悔し引き返すのですが、女性ハイカーは殺害されており小さな女の子が殺されようとしていました・・・。

 命がけで助けた女の子を村に残す訳にはいかず、味沢は別の村で女の子を置き去りにすると隊に戻り顛末を報告します。
 味沢は女の子を助けるためとはいえ殺人を犯しているのですが、秘密訓練故に味沢の足跡は消され、直後味沢は除隊していきました。

 北野は捜査を続けるなか、長井頼子を引き取った男が、柿の木村の犠牲者越智美佐子の妹にも関わっていることを知り、味沢こそが柿の木村の犯人と確信していきます。

 羽代市は政治家の大場一成が暴力団も警察も牛耳る腐敗した地区です。朋子の勤める新聞社には朋子を含めて数名、いずれ大場に致命的なダメージを与える機会を伺っているのです。

 味沢は朋子と恋仲になるのですが、大場には暴走族の息子がおり、朋子は大場の息子に目をつけられ、犯され殺害されてしまいます。

 味沢は朋子を殺害した男が大場の息子と突き止めると、捕らえ拘束するのですが救出に来た暴走族のメンバーと素手で闘うことになり自衛隊の特殊工作隊で培った使いどころのなかった野生が爆発します。
 
 多勢に無勢、状況が不利になり追い詰められた味沢に、密かに状況を見まもっていた北野は斧を投げ渡します。斧で暴走族を殺しまくる味沢をみた頼子は突然覚醒し「父を殺したのはあの人です」と・・・。

 味沢は逮捕されるのですが脳に腫瘍が発見され エルウィニア菌が起因していることがわかり、精神病院に送られることになります。
 味沢に斧を渡す異常行動を起こした北野も検査の結果、脊髄からエルウィニア菌が検出され味沢も佐竹も柿の木村での短い滞在で菌に犯されていたのです。

 柿の木村の事件は長井頼子の父親長井孫一がエルウィニア菌により発狂し12人を殺害し、さらに実の娘長井頼子を殺害しようとしたところに味沢が現れ、格闘の末に長井孫一から斧を奪い頼子を救ったのですが、孫一が味沢や北野と同じエルウィニア菌により発狂していたことも、真犯人が孫一であることも、味沢が頼子を救ったことも誰にもわからないまま狂った味沢は精神病院に送られ、長井頼子がどこにいったのかわからないまま終わります。
 小説の冒頭で意味なく語られる軟腐病に結びつけた最後の数ページで明かされる真実に、虚しい感動があるのが小説『野生の証明』なのです。
 

『人間の証明』を成功させた角川春樹氏は再び森村誠一氏に次なる映画化小説を依頼し、『証明シリーズ』三部作の最終話が映画化されることになります。
 戦略家の角川春樹氏は一般公募で主人公となる女の子を募集し話題をさらいます。

 映画に迫力のあるシーンを求めた角川春樹氏は味沢vs自衛隊特殊工作隊という話をエンディングにしたために、作家森村誠一氏の小説のエンディングを台無しにする映画になってしまい、その映画の終わりも何故か中途半端な台無しのつくりなのです。

 特殊工作隊のリーダー・皆川2等陸佐(松方弘樹 )の乗るヘリのドアガン(機関銃)は面白いほど元1等陸曹・味沢(高倉健)には当たらず。味沢のアーマーライトもいったい何発射たなければならないのか?と思うほどヘリの片隅にも当たらないのです。全くお粗末な特殊工作隊の戦いが、当たり前のように長々と続けられるのです。
 この映画も角川春樹氏の大暴走、とんでもない映画です。皆川2等陸佐は長井頼子(薬師丸ひろ子)をあっという間に撃ち殺す腕があるのにとんでもないことです。
「おとーさーん」と言いながら走り出す薬師丸ひろ子さんのセリフがなんだか虚しい、原作無視の☆0映画です。

 
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