半兵衛

流れるの半兵衛のレビュー・感想・評価

流れる(1956年製作の映画)
4.3
豪華な女優陣、幸田文の世界観、成瀬監督ならではの生活感を大切にした繊細な演出と巧妙なカット割すべてが合致した名作。女の園である芸者の生活を虚飾を排して描かれ、俳優たちによる各々の力関係と性格がにじみ出た駆け引きが日本らしい湾曲的に、ときに激しいやり取りで描かれるさまは生々しくもどこかユーモラスさもあるため楽しい。

女性たちの駆け引きを柔らかい物腰でいなし隙のない礼儀作法と言葉遣いで女中の仕事をそつなくこなす主人公の梨花を田中絹代が見事に演じて存在感をあらわす。また原作では彼女の視点で物語が進行していくのに対して、映像化にあたって彼女の内面をナレーションを使って表現したりせずあくまで微妙な動作と表情でそのニュアンスを伝える成瀬監督の手腕と田中絹代の演技に感動すら覚える。ちなみに原作の小説を読むと映画で省かれていた細かい部分や主人公の感情がよくわかるので映画と小説両方鑑賞するのが最良の楽しみかたと言えるかも(ただし小説版は古文のようなくせのある文章で書かれているので読みにくいことに注意)。

成瀬監督は無駄のないカットの割り方に定評があるが、この作品は特にそうで一切いらない場面が存在しない。そして日本家屋の構造を利用して部屋や家を出ていくなど最小限の動作で映画に活劇としてのアクションをもたらす演出に目を見張る。

だらしのない杉村春子に笑わされ、中年とはいえ艶やかさが滲む山田五十鈴の芸者ぶりに酔いしれ、『仁義なき戦い』の内田朝雄を思わせる大物っぷりを見せつけ田中絹代と観客に非情な現実を突きつける栗島すみ子に痺れる。さらに脇にいる龍岡晋や中村伸郎、加東大介、宮口精二、賀原夏子といった名優陣が映画の世界を引き締める贅沢な仕様にお腹一杯に。そして子供がいるのにニート状態で何もせず家をうろつくオールスター作品とは思えないくらい力の抜けた中北千枝子の演技が現実的な空気を映画にもたらす。

滅び行く世界への力なき挽歌のようなラストがほろ苦く切ない、所詮籠の中の鳥は籠でしか生きられないのか。
半兵衛

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