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おおかみこどもの雨と雪のよーだ育休中のレビュー・感想・評価

おおかみこどもの雨と雪(2012年製作の映画)
3.0
苦学生である花は、初夏のある日、講義に潜り込んでいた無愛想ながらも心根の優しい男性と恋に落ちる。冬のある晩、彼から素性を明かされた花は、それでも彼を受け入れる。二人の子宝に恵まれた花であったが、その直後に彼は帰らぬ人となってしまう。


◆母が好きになった人は、狼男でした。

細田守監督作品三作目にして、ついに監督の『癖』が抑えきれなくなってしまった作品。作品全体を通してケモノとショタで溢れています。絶滅してしまったニホンオオカミの血を引いているという彼との間に生まれた『おおかみこども』は、人間の姿にも、狼の姿にも、狼人間の姿にもなることができました。(ゾオン系の能力者かな)

ー笑っていれば、大抵の事はなんとかなる。
ー同じ団地でも、いろんな家庭がある。

決して裕福では無かった二人が、冒頭で語り合うシーン。トークテーマが美しすぎて、絵本じみて見えました。彼が『狼男なんだ』って正体を明かすシーンも、テクスチャの異なる遠景・近景・キャラクターを重ね貼りしていて、絵本みたいな独特なタッチだなと感じました。

実際に作中では『紙芝居』のようにして花がまだ幼い雪と雨に『人前で狼になっちゃダメ』『動物たちの前で偉そうにしちゃダメ』という事を教えていましたし、『オオカミは嫌われ者』という絵本のイメージを幼い雨が気にしてしまう描写もありました。ケモノとショタだけでは無く『誰かに助けてもらわないと生きていけない』とか『簡単に諦めてはいけない』とか『笑っているだけではどうにもならない』とか、ちょっと押し付けがましく感じられるほど、小綺麗な教訓で溢れかえっていた様に思えました。監督もこの辺は狙っていたのかな。


◆雪の日に生まれたから『雪』

『おおかみこども』として生まれた姉の『雪』と弟の『雨』をシングルマザーとして育てていくにあたり、小児科と動物病院の間で花が逡巡する様子は面白い演出だと思いました。子供が将来、狼と人間、どちらの暮らしも選べる様にと田舎の人里離れた古民家へ移り住むアイデアも(都会で隠れて暮らすことに花ちゃんが疲れている様にも見えましたが)面白かったです。

田舎の描写は『サマーウォーズ』を手掛けた細田監督の手腕が存分に発揮され、美しい自然の描写が印象的でした。CGを合わせた疾走感のある映像や、雪の日の朝のどこまでも深く澄んだ空の色。田舎で再生を図る親子の姿を描く中盤パートは、物語も映像もとても美しかったです。


◆雨の日に生まれたから『雨』

お転婆娘だった雪は、人間の道を。
臆病だった雨は、オオカミの道を。

二人の姉弟はそれぞれ異なる道を進むこととなるのですが、狼の巣立ちの時は早く、10年そこそこで花の元を離れてしまいます。時を同じくして中学校へと進学することとなる雪もまた、親元を離れて寮に入ります。

元気でー!
しっかり生きてー!!

両親の馴れ初めから出産。短い睡眠時間で育児に奮闘して、子供の巣立ちを見送る。《家族》の形のなかでも今作はとりわけ《親子の絆》というか《母の愛》についてフォーカスされていました。『サマーウォーズ』同様、あまりにも美化されて描かれていた今作は、『サマーウォーズ』の様にはハマることが出来ませんでした。理由は、あまりにも花ちゃんが報われなさすぎると思ったから。お節介で余計なお世話かもしれないけれど、細田監督の理想を押し付けられた可哀想なキャラクターの様に映ってしまいました。

学生時代に妊娠・出産。小さい二人の子を残して夫に先立たれ、誰にも相談できないままに乳幼児期の子供を育てる。こんなの、笑ってなんとかなる『並大抵のこと』であるはずがありません。そうして自分を削りに削って子供が巣立つまで12年。30そこそこのまだ若い女性に残されたのは、奨学金という借金と、何人もの人が逃げ出した厳しい環境下にある山奥の古民家。はたして花ちゃんは本当にこれでよかったのでしょうか。シングルマザーとして奮闘するシーンも『女性が子育てに苦労するのは当たり前』と言っている様で、それを正当化しているような映像に見えてしまって。辛い、苦しい、そんな現実的なシーンばかりを生々しく描いておきながら、最後は『子供の幸せを願って静かに暮らしているー。』みたいな締め方。ちょっとあんまりすぎるなって思いました。

花ちゃんはキャラクターとしては大好きなだけに、今作はあまりハマれませんでした。


*雑記*
みるきぃちゃん今回もありがとう!
細田作品マラソン三作品目の今作。実は視聴済みの細田作品の中で(『バケモノの子』と『竜とそばかすの姫』が未視聴)一番苦手な作品でした。何とか難所を乗り切ったぞ!