Jeffrey

津軽じょんがら節のJeffreyのレビュー・感想・評価

津軽じょんがら節(1973年製作の映画)
5.0
‪ ‪ ‪「津軽じょんがら節」

‪ 〜最初に一言、津軽三味線の血の煮えたぎるような、膓に沁みる音色の中に日本芸能の全ての源を覗き見る思いがするアートシアターギルドの大傑作。私のATG十本の指に入る越後瞽女の存在の記録を確認させる津軽の荒涼たる風土感と民謡と尺八の音に細胞一つ一つが突き動かされ、もはや分子レベルで東北の原風景を理解している斉藤監督の頗る名画である。私は本作を嫋々として哀感ある映像と津軽三味線の旋律に心を奪われる唯一無二の作品として位置づける〜

冒頭、津軽三味線の演奏。老婆と瞽少女の会話。荒れ狂う日本海の波の音、一台のバス。若い男女が下車…本作はATG映画の中に留まらず日本映画界の大傑作と言える斎藤耕一の代表作。BDにて再鑑したが素晴らしい。本作は津軽の荒涼たる風土感が満載の映画で、カラー・シネマ・スコープサイズの画面には、常に荒れ狂う津軽の海と、波風に侵食されて朽ちた家や橋、柵などと、その上を吹きすさぶ風の音が捉えられている映画なのは周知の通りで、鳴り渡る津軽三味線の音と、民謡と尺八がこの映画のもう一つの主人公たる要素と言っても過言ではない。もちろん私は津軽の風景もその一つに加えたいと思う。

所で、この作品は非常にインパクトのある出だしをするが、その画伯は斉藤真一の赤を基調とした盲目の女芸人瞽女の絵がインサートされて、映像的な句読点の役目を果たしている。これは白井佳夫氏も言っている事である。そこへ斉藤監督がシャープな映像と音によって捉えた津軽の荒涼たる風土感は和的な風景を映し出していると思う。この映像を見ると東北の原風景の映像的なみずみずしさは凄いと思う。そもそも斉藤耕一と言う人物の処女作を見たときに思うのが、東京の六本木周辺の感じをとらえた「囁きのジョー」と言う作品と本作のうってかわって違う風景である。そもそも六本木族のされた生活ムードを体現した人物たちだったりそれらをホームグラウンドとして作っていた彼が選んだロケ地がカラー・シネマ・スコープの横長大画面いっぱいに捉えられて美しくモダンに描かれていたのはヌーベルバーグに匹敵するだろう。

まず、このサイズ感に感動するのである。しかも脚本、監督、撮影、音楽を担当した彼にとっては、まったくの自己資金で作られた作品であり、やはり監督が自由に作れる作品と言うのは良作なものが多いと感じた映画のー本でもある。ペキンパー監督の「ガルシアの首」などまさにその代表格であろう。atgが多くの優れた作品を世界に輩出させた理由のーつに監督への自由があったからだ。無論、資金が決まっており最低限の範囲の中でいかに素晴らしい作品を撮るかと言う頭の回転の良さもあるのだが、今の映画界にとってはそれらは皆無で、このような作品が作られる事はまずもうないだろう。


正直、日活で石原裕次郎や赤木圭一郎の現代感溢れるスナップをとっていた斉藤が映画カメラマンに転じ、シナリオ書いたりして、ここまでの傑作を生み出すとは思いもしなかった。そもそも監督の他の作品を見てもやはり日本的な風景を捉えている作品が多い。「約束」でも北陸を舞台にしていたし、「旅の重さ」では四国遍路の旅をする話と言うことで、四国の風土がきっちりとフレームに収められていた。確か「約束」は監督が韓国へ旅へ行った時に韓国映画どういった作品だったかは今思い出せないが、それにインスパイアされ日本風土に置き換えて作品を撮ったと言う話を記憶しているのだがどうだっただろうか…。この映画は実数二十六日間の撮影、わずか十人のスタッフによって作られたのは凄いと思う。


風音に荒涼な土地に建つ鳥居の描写はまるで別の宇宙を見るかの様。‬また暮色の浜辺を盲目の少女をおんぶし歩く描写の儚い美しさ。木管楽器の一種 尺八の演奏を強調した場面や随所に流れる三味線の音の格好良さったらない。絵と画の切替、赤を基調とした服。花札の賭事、女衒的行為、蜆漁、真実を知り絶望する女や瞽の少女、そして終盤は荒れ狂う波音が穏やかな音に変わ‬り幕が下がる…と思いきや全く想像を超える終盤が向かい打ち、仁義なき戦いが行われる…そして“故郷が見つかったのね”と捨て台詞を言う歳上の愛人、その真っ赤なコートを着た女は息子を事故で亡くした貧村の漁師が遺骨を持ちすれ違う描写、その後に起きる暴力団の問題、この描写で観客は考える。

とある‬真実を知った愛人が告げ口をしたのかと…物語は問題を起こし東京から貧村に潜伏する男女を描いた作品で大傑作。最早死ぬ迄に観ておくべきATG映画トップ五に入る。本作の画期的な所は田舎町を毛嫌う男とその田舎を故郷とする女の心情が佳境に入り逆転される点だ。‪ ‪そして本作最大の第二の脚本とも言える高橋‬竹山の津軽三味線の音が冬の日本海の漁村で重く響く音色を奏でる。津軽の山々に、空に海に響き渡る三味線の音を一度耳にしたら虜に…一度、青森県東津軽郡に足を運びたいもんだ。貧しさは優しさに変わる、そんなシークエンスを目の当たりにする本作は正に斎藤耕一が遺した日本映画の“絶対的大傑作”だ。‬ ‬

最後に余談だが、佐藤真一(ポスターの絵を描いた人物)は確かポルトガル旅行を計画していたが、斉藤監督から電話が入ってきて、この映画の中にあなたの瞽女の作品を入れて、何かと協力してほしいと言われ準備万端整えて出発も後数日に迫っていた旅行を速攻でキャンセルしてーも二もなくすべてを承知したと言っていた。ちなみに今村昌平の「にっぽん昆虫記」は彼のストップモーションで作られており、「神々の深き欲望では最初の方ではカメラを自分で流していたそうだ。途中で交代したと言うのは多分その映画が四年かかったからだろう。


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