しゅん

野人の勇のしゅんのレビュー・感想・評価

野人の勇(1920年製作の映画)
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速い。速い。子供には好かれるが大人からはとにかく嫌悪されるぐうたら男ビム(バック・ジョーンズ)が狡猾な悪人と闘う話は、フォードの中でも特にリズムの速いカット割りで語られていく。50分でおよそ700カット。『砂に埋もれて』も『誉の名手』も『香も高きケンタッキー』も400カット前後なので、これはかなり多い数字。馬は登場するし「投げる」動作(医者が花を放り捨てるシーン)も出てくるからそういう意味では典型的なフォード映画だが、特筆すべきは馬より車の速度が強調されることだろう。後半、馬に乗る盗賊団に対抗して、ビムは車で追跡を試み激走の結果追い付く。『怒りの葡萄』にしろ『タバコ・ロード』にしろ車はオンボロの不安定さを強調していたので、ここでの高級車の安定した速度感は異例。ほかに車の速さを強調したフォード映画ってあったかな?

ビムのような実直で気弱なはみ出し者が嫌われて集団リンチ間際までいく流れ、フォードの映画で一番怖いかもしれない。強引に逆転させるけど、その集団性の恐怖が終わりまで解消せずに持続しているように思う。木の穴から男がでてくるギャグも『誉の名手』のようには笑えない。
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