masahitotenma

儀式のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

儀式(1971年製作の映画)
3.5
大島渚監督が冠婚葬祭という儀式を切り口に、家父長制が根強く残る地方の名門一族の忌まわしい歴史を通して、日本の戦後民主主義を批判的に総括した作品。
音楽は武満徹。(1971)

満洲事変の頃に満洲(現在の中国東北部)で生まれた主人公の満洲男(河原崎建三、少年時代は椿隆一)は、敗戦で母親のキク(高山真樹)と共に満州から引き揚げ、父韓一郎の実家である九州の桜田家にたどり着く。
ところが、父は1年前に自殺し、丁度一周忌で一族が集まっていた。
桜田家では、当主の一臣(佐藤慶)が家長として強権的に振る舞い、彼が手当たり次第手をつけた女性の子や孫で、一族は血縁の入り乱れた複雑な家族関係を形成している。
満洲男は、祖父の命令で桜田家の跡継として、いとこたちと共に、この複雑な血縁関係のなかに引き込まれていく…。

物語は、従兄の立花輝道(中村敦夫、少年時代は大田良明)からの電報を受け取った満洲男が、従姉(妹)で輝道のかつての恋人・桜田律子(賀来敦子、少女時代は成島有美)とともに、鹿児島の南にある島へ向かうシーンから始まり、満洲男が過去を振り返る形で展開する。

~その他の登場人物~
・曽祖母、富子(河原崎しづ江)
・祖母、しづ(乙羽信子):一臣の妻
・祖父の兄嫁、ちよ(三戸部スエ)
・ちよと一臣の間に生まれた守(戸浦六宏)
・父親の腹ちがいの弟、勇(小松方正):共産党員
・勇の花嫁(原知佐子)
・もう一人の腹ちがいの弟、戦争犯罪人である進(渡辺文雄)
・進の子、忠(土屋清、少年時代は椿幸弘):国粋主義者
・叔母、節子(小山明子):律子の母

"相手不在の結婚式"

主人公の満洲男は子ども時代に満州で弟を亡くして、ある種のトラウマを抱えている。彼はグズズズと考えてばかりで、主体性がない。従兄弟の輝道に対して劣等感を抱えて、桜田家を継ぐ者としては、とてもひ弱い。
ラストで、真に桜田家を継ぎうる人物である輝道が桜田家と対峙する方法や、満洲男が思いを寄せた律子が取る行動も、古い"儀式"の延長線上にあるのではないか。
戦後の日本の民主主義は形(儀式)だけのものだったと、大島渚は華麗な様式美とともに描いてみせた。
masahitotenma

masahitotenma