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トロッコのodyssのレビュー・感想・評価

トロッコ(2010年製作の映画)
3.0
【風景は美しいが】

芥川龍之介の有名な掌編を原作に、台湾を舞台として作られた映画です。

この映画の見どころは台湾の田舎の風景です。奥深い森林は神秘的ですし、またトロッコの線路が無限かとも思えるように続いている様子も興味をそそります。鉄道の線路というのは、道路と違ってその上を走れる車両が限定されている分、逆に人を強く惹きつけるところがあります。いわゆる「鉄」が少なからず存在しているのもそれなりに理由があってのことでしょう。そうした線路の魅力と、台湾の風景とのマッチングがこの作品を支えています。

しかし人間ドラマとしてはイマイチでしょう。昔は日本人だったおじいさんの述懐にはそれなりの重みがありますが、おじいさん夫婦と次男夫婦の関係だとか、夕美子の生き方だとかは、きわめて表面的な描写しかなされておらず、最後近くで夕美子がおじいさん夫婦との同居を言い出すのにもあまり説得性を感じません。またそれをおじいさんに諫められて簡単に引っ込めるのも、ご都合主義的で薄っぺらな印象を残します。この辺はもっと脚本を練っておかないと大人の観客をうなずかせることはできないのだと、制作側は肝に銘じておくべきでしょう。

なお、昔の台湾と日本の関係や、日本人であった経験をもつ台湾人の存在については、昨年公開された酒井充子監督のドキュメンタリー映画『台湾人生』が貴重な情報を与えてくれますので、未見の方にはお薦めします。
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