半兵衛

警視庁物語 全国縦断捜査の半兵衛のレビュー・感想・評価

警視庁物語 全国縦断捜査(1963年製作の映画)
4.2
本庁の刑事たちが事件の捜査から犯人の逮捕までをリアルに描いた「警視庁物語」シリーズ、地味だが当時の社会の世相を深く描いた作風、やるせない結末、仄かなユーモア、大物スターは出ないが(千葉真一は除く)渋い俳優たちの味わい深い演技で結構ファンがいて(私もその一人)、最近は色々な動画サイトで見ることができる。
さて第21作目となる本作は、警視庁物語シリーズの中でも一番のスケールの大きさを持つ作品で、奥多摩で見つかった焼死体、そこにあった沖縄の小学校の名前が入ったバックルなどから、手がかりを求めて刑事の一人が沖縄に向かう…という展開。そして捜査過程で見つけた様々な手がかりから秋田・四日市にも足を伸ばして捜査する。
一見すると二時間ドラマやテレビドラマの刑事物と変わらない展開で、普通のドラマだったらタイアップとなるホテルや観光名所、鉄道を撮したりして彩りを添えるという程度なのだが、この映画の凄いところは立ち寄った土地での(製作当時の)状況がこと細やかに描かれていて、当時の人たちの暮らしぶりがリアルにわかることだ。例えば沖縄ではひめゆりの塔、那覇空港、国際通りと観光地をきちんと押さえている一方で、日本に返還される前の土地問題や経済状況、そして沖縄での太平洋戦争による本土決戦の傷痕などが捜査の過程で浮かび上がる。しかもそれらはナレーションではなく、案内する地元の刑事や土地の人たちとの会話から自然にあらわれるというのが巧みで、そこらへんが通好みと言われる所以か。秋田では八郎潟の干拓による漁場の問題、四日市では近代的な石油コンビナートとその事情が描かれている。東京でもアメリカの巨大資本が日本を乗っ取るという話や、東京オリンピック直前で建設ラッシュに沸く土木業界、一方ではその繁栄に取り残された市民の姿が描かれ、当時の日本の姿が浮き彫りになる。
そして肝心の犯人も、この手のスケールならば大規模な犯罪グループやテロリストと現在なら相場が決まっているが、本作は真犯人は戦前の日本の農村の暗部から生まれたような人間で、小さいときから差別され、そしてその状況から脱したいがために犯罪を犯す…と社会を見つめるこのドラマに相応しいキャラになっている。また犯人には子供がいて、それが観客に苦さを残すラストの伏線になっている。
もうひとつのこの映画の見所は役者で、レギュラー陣の神田隆、堀雄二、花澤徳衛、山本麟一、南廣、松本克平がただてさえ邦画マニア好みの配役なのに、ゲストが今井健二、潮健児、清水元、織本順吉、岩崎加根子、中原ひとみ、室田日出男、浜田寅彦、中野誠也と思わずマニアがよだれを垂らす顔ぶれが揃っている(ネタバレになるが犯人役の人も有名な人)。中でもその目の愛くるしさから「バンビ」と呼ばれ人気があった中原の壮絶な演技は見る人の心を締め付け、映画に苦い余韻をもたらす。
「警視庁物語」を見てない邦画ファンは動画サイトにもたくさんあがっているんだから、この機会に見ておくのも良いんじゃないかなと思う。
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