レインウォッチャー

スクラップ・ヘブンのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

スクラップ・ヘブン(2005年製作の映画)
3.5
村上龍が『ファイト・クラブ』を書いたら、みたいな映画だと思う。

「みんな想像力が足りないんだ」。
理想と現実のギャップにくすぶる若手警官のシンゴ(加瀬亮)が、ワイルドな青年テツ(オダギリジョー)に手を引かれ、復讐代行屋を始める。初めは憂さ晴らし、悪戯の域を出なかった活動は、やがてテロリズムの可能性へと。

彩度が低く閉塞感に満ちた画面は、日本の湿度によく合っている。『ファイト・クラブ』では自らが火種のスイッチを押したけれど、この国ではそれもままらないのか、確かにね、なんてことを、なかなか粋で気障なラストシーンから思ってみたりする。

片目が義眼という栗山千明、まあ出オチみたいな設定ではあるのだけれど、なんでまたこんなにえろいのでしょうか。サングラス七変化と、身体の薄さ(細さより薄さ)が良い。
後半、この片目は怪我を負ったシンゴと同期して、多くはない会話以上に両者の距離を埋める役割を果たす。かも。

物語の強度よりも俳優陣の存在感に預けた作品であるとは思うけれど、2000年代初頭の空気感をうまく閉じ込めている。極まっている瞬間瞬間が確かにあって、においと共に甦る。

あと、映画史上でも稀に見るであろう「トイレ映画」でもある。冒頭からテツは公衆トイレにいて、その後も異空間のような汚さのトイレが彼らの基地になる。
日本のトイレは優秀といわれるけれど、要するに周りを綺麗に囲った肥溜め。そんな場所だからこそ、見過ごされた者たちが、流れず詰まって行き場のない思いを捨てにくる。

眺めの良い屋上に立ったとき、空の向こうを見つめる者もいれば、下に広がるビル群に大きな何かが落っこちる図を想像する者もいる。これは後者のような人のための映画だ。