まりぃくりすてぃ

女の一生のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

女の一生(1967年製作の映画)
4.7
19世紀のモーパッサンという“球根”を、20世紀日本(敗戦後まもなく)での“咲き溢れ”まで持っていった傑作! 21世紀の私たちでも普通にリアルに最旬みたいに共感できる普遍性(これは原作の普遍性とはまた別のもの)に、敬礼したい。

「修道院の寄宿学校を了(お)えて戻ったマドモワゼル」を「終戦となり、結核療養所から癒えて帰ってきた大和撫子」へと無理なくトランスレーション。脚本の三人、この時点で凄い。
冒頭、何やら唱歌っぽい音色。長野つながりで「うーさーぎ、おーいし」を聴いてる気分へと私は揺らめいた。「……あれ? どこからモーパッサンになるの?」と面食らうぐらいに、しばらくは純邦画的世界。
そして一瞬もダレないまま、随所随所でやっばり原作が提示された。

主役・岩下志麻さんが演技者としても華としても完璧なのはいうまでもない。睫毛長くて、目全体は大きすぎず、瞳が大。“秘めた万感”が常に常に私に迫った。

さらに、父役の宇野重吉さんが“宇野史上最高の”演技! まるで将棋盤上で志麻さんという王将格の姫駒を護(まも)りぬこうとする金みたい。(母役の長岡輝子さんは銀みたいで。)出演作によっては演劇臭を出しすぎることもあった宇野さんだけれど、この『女の一生』の彼は、笠智衆さんを超えて“邦画史上最善の”父親像を見せてくれちゃってる気がする。

ほか全員、渾身演技。栗塚旭さんも、うんと若い田村正和さんもよかったけれど、はる美役の左時枝さんのテキパキ度が添えてくれた“差し色”感を私は特に高評価したい。

ちょっとどうかなと時々思ったのは、最重要な下女役の左幸子さん。前半の洗濯場でスゴイ胸の谷間(2016年フランス版に負けてないボリューム!)をしっかり見せた彼女は、前半ではライバルっぽさよりも野暮ったさを、後半では善良な盟友感よりもオバサンの逞しさ(図太さ?)を放ちすぎて、不必要に「怪演派」だった。。。 せっかく美人なんだから、下女役なりに、もうちょっと岩下志麻さんと拮抗してほしかった。見分けがつかないぐらいに。

シナリオの問題点もあることはある。ラスト前の病院シーンが煽情に専念しすぎてた。今わの際に歌ったりするのはベタで好かない。
ともあれ、最後まで秀作の空気は張り詰めつづけた。
序盤の初夜の描き方は、原作よりもフランス映画よりも奥ゆかしい。日本って、いいね。