すくりね

The FEAST/ザ・フィーストのすくりねのネタバレレビュー・内容・結末

The FEAST/ザ・フィースト(2005年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ホラー映画のあるある展開をことごとく逆張りしてくる今作。

バーに集まった老若男女が謎の怪物に襲われ、生き残りをかけた戦いが始まるというストーリーです。

収拾がつくのか心配になるほどの人数のキャラクターがいきなり紹介され、誰が生き残るのか、果たして脱出できるのかというスリルを味わえる娯楽作品で非常に楽しめました。

しかし、今作において個人的に怪物以上に興味深かったのは、弱い立場にいたキャラクターが立場を逆転させていく点でした。

それを強く感じたのは、車椅子の少年のホットウィール*1と、バーのウェイトレスとして働くタフィーに対してです。

ホットウィールは出だしこそハンディキャップを負っていることから怪物に対しては劣勢で、戦いに積極的に参加できるタイプではありませんでした。

しかし、後半になるにつれ手製の爆弾を作り、罠を仕掛けるなどその技術力と頭脳で脱出作戦の中心的な役割を担っていくのです。

その姿はまるでプロフェッサーX*2と重なるようで個人的には胸熱だったわけで、フィジカルで勝てないのなら頭脳で、というやり方は非常にいいですね。


次はタフィーに関して。
劇中では登場人物のプロフィールが登場時に字幕で表示される親切設計になっているのですが、タフィーは「プロウェイトレス」と紹介されるのです。

ウェイトレスにプロアマの概念があるのには驚かされましたが、タフィーは制服すら着用せず、パーカー姿で普通に給仕したりで、プロ感は薄かったです。アットホームなタイプのバーなんですね。

そんな彼女はシングルマザーでもあり、コーディーという息子がいます。

たった1人の家族をとても大切にするいいママなのですが、バーの店主であるボスマンに性的に搾取されながらも下働きをするという厳しい状況にあります。

どうしようもない状況に無気力だった彼女ですが、モンスターの襲来、およびヒロイン1の死が変わるきっかけとなります。

登場後史上最速で死亡したヒーローの死を悲しむヒロイン1ですが、彼女には娘がいます。
ヒロイン1の原動力は、生きて娘の元へ帰ること。
怪物の襲撃にいち早く気づき、戦い続ける姿を見てタフィーは心を動かされていくのです。

そんな中、タフィーにとって最大の悲劇が起こります。
製作者の逆張り地獄にコーディが巻き込まれ、無垢な子供は死なないというジンクスを打ち破るかのように彼女の息子は容赦なくモンスターに食い殺されてしまいます。これは辛い。

そして当然のごとくヒロイン1が誤射で死んでしまった後には完全に戦士となり、ヒロイン2となったタフィーは生き残りをかけた争いを導いていく立場になります。

さらに彼女の原動力は、今やヒロイン1の娘を生きて迎えに行くことに変わったのです。母は強し。

このヒロイン交代劇と、目的のシフト具合はびっくりさせられつつもかなり面白みのある演出でいいですね。


女戦士と化したタフィーとは裏腹に、ボスマンはつま先にショットガンの弾を食らったり、集団内での発言力も低下したりでどんどんと力が弱まっていき、最終的には無惨な死に様をさらします。

といったように最初の立場が逆転してしまうという面白い展開で、単純なB級ホラーを予想していたため不意を突かれました。

他にもイキってカッコつけようと必死な若い男はダサい側面が溢れ出てきたり、反マッチョイズム的展開なのかわかりませんが、怪物の男根がドアに挟まり切り取られる描写などは男らしさへのアンチテーゼとも取れますね。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」では女性によるクズ男への直接的な報復が痛快に描かれていましたが、今作は怪物がそれを代行してくれるといった形で男どもは手ひどく痛めつけられるのです。

ポリコレの意識が高まっている現代ではあまり珍しい展開ではなくなってしまったかもしれませんが、この映画の公開が2005年だということを鑑みるとなかなかに先進的な試みですよね。

まぁ単に逆張りを極めたおかげでそうなっただけなのかもしれませんけど。


*1Hot Wheels (ホットウィール)
ミニチュアの玩具の車を主に製造するアメリカのブランド。
一昔前のトイザらスに行ったことのある児童であれば必ず目にする機会があったはず。

*2 プロフェッサーX
MARVEL社が出版するコミックシリーズの「X-MEN」に登場する主要キャラ。突然変異により世界最強のテレパシーを使えるようになったが、怪我により車椅子での生活を余儀なくされた。
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