大手スタジオとは一定の距離を保ち、インディンペンデントなスタイルと制作体制を貫く女性監督であるケリー・ライカートを特集するシアターイメージ・フォーラムの素晴らしいお祭り企画を、月曜サービスデーということで4本いっき見の映画マラソンを敢行する。
先ず1本目。
2008年当時、日本劇場未公開だったKelly Reichardt編集・脚本・監督作。
16mmフィルムを使用し[Arriflex 16 SR3]のカメラで撮影。
撮影監督はSam Levy。
共同脚本にオレゴン州を拠点とする小説家Jonathan Raymond。脚本家のときはジョン・レイモンド名義で活動することが多いらしいのだが、この拘りは何なんだろう…
トッド・ヘインズの長編監督デビュー作”Poison”(1991)の小道具と衣装の責任者を担当していたのがケリー・ライカートで、その頃からずっと友情が続いているようで、本作でもexecutive producerを務めている。
恥ずかしながら、このケリー・ライカートという監督を全く知らなかった。
イメフォでたまたま予告編を見て…ん?何だコレ?数多の見慣れた商業向けの予告ではないのは一瞬で感じ取ることはできた。どんな映画なのか何も説明しないその異質さが心に残った。
そして些か不安ではあったが、前情報も入れずに4本分の席をネット予約してしまッタ…(もしクソつまらなかったら…どうしようと怯えながら…)
正直、映画マラソン1本目が本作でよかった。
久しぶりに、「オレはいま目茶苦茶イイ映画を見てる!」という高揚と実感が、カラダの奥底から無限に沸き起こる素晴らしい映画体験となった。
古びた貨物列車がゆっくりと動き、他の車輌は車庫なのか整備なのか?…先ず、この構図が素晴らしい。フレームの切り方、編集のテンポ…もう!ここだけで、いい映画の予感がする。
先日、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』であるが…本編は見てないのだが…その短い予告だけで、どれだけ画面が貧相なのかが十分に伝わる。
恐らく予算の少なさでいったら、大差はないはずなのに…なぜこうも違うのか?
ケリー・ライカートを全く知らなかったけど、その予告だけで、凡百の予告との違いを見せてくれたのに…かたや『ドライブ・マイ・カー』の予告といったら…メイク室で余計なものがガチャガチャ映り込んでいるし、なにもないコンクリートの駐車場の貧相な構図といったら見てられない。これで脚本賞?!
いや本編は、物語はいいのかもしれないけど…でも映画としては…どうなんだろう?濱口メソッドとか云われてるけど…役者の芝居つける前に他にやることありそうだけど…
五輪の選手村にテレビも冷蔵庫もないと恥の上塗りが止まらないが、個人的には『ドライブ・マイ・カー』の予告だけで恥ずかしくなってしまった…。
濱口竜介監督に何も恨みはないのだが…
話が逸れた。
”WENDY & LUCY”を褒めようと比較対象を出したら全く関係ないのに、とばっちりをしてしまった。
話を戻す。
ポン・ジュノ
「映画史に名を刻むべき最も美しいオープニングシーンのひとつ」
と語る。
これは列車の後のカットのことを言ってるのかな?
草むらで愛犬のルーシーと戯れているMichelle Williams演じるウェンディと、その愛犬のルーシーがウェンディの投げた棒きれを取りに行っては、咥えている棒きれを離さない。横移動で追うカメラに、ウェンディのハミングが重なる。
たぶん、ポン・ジュノはここまで含めて最も美しいオープニングだと語ってると思うのだが…
ここは手持ちなのか、ステディカムなのか分からないが不自然に揺れていたのが個人的には気になってしまった。
ここはレールをひいてドリーで追ってほしかった!
青空に電線、そこに鳥の群れ。このショットも非常に斬新な切り方をしていて心に残っている。
下手側に画面を縦断するように電線、そこに横向きに止まる鳥。端っこに寄っていて、画面の大部分は青空。こんな切り方をするショットは他に記憶がない。一瞬のカットだったが印象的である。
Walter Dalton演じる警備員、Will Patton演じる整備士、この二人の実在感もホントに素晴らしい。キャスティング、ナイスですねぇ!
多くを語らない警備員もいいし、すぐ電話の応対してウェンディを客だと露も思わないで、話を聞く気がない整備士も最高!
ウェンディのボロ車がホンダのアコードってのもイイとこついてる。アコードって…懐かしい。
免許取り立てくらいの時期に、多少流行ってたような…アコード乗りが多かった気がする…
こんなカタチだったか?記憶は曖昧だが。もしかすると北米仕様かな?
あぁいい映画を見ているんだという喜びと余韻と…
この後に連続で3本見てしまい、細かい情動が消えてしまったのが残念なのでDVDを即買いして見直そうと思ったのだが…
日本劇場未公開だけあって手に入りません。
これを期にDVD化を宜しくお願い致します。
第61回カンヌ国際映画祭(2008)パルムドールならぬパルムドッグを受賞したルーシーの名演技も忘れ難い。
髪の毛を洗わずに撮影に臨んだミシェル・ウィリアムズのスターオーラの見事な消しっぷりも心に残る。そしてあの眼差しが瞳に焼き付いている。
パンフレットより
蓮實重彦
「何にキャメラを向けるかではなく、地平線をフレームのどの位置に収めるかが映画を決定するという心構えは、ジョン・フォードが若き日のスピルバーグに与えた教訓だとされているが、ライカートほどその教訓に忠実な映画作家も容易くは想像し難い」
なるほど。
地平線をフレームのどの位置に収めるかが映画を決定するのか…何を撮るかなんてのは、さしたる問題ではないのかもな…
地平線をどの位置に収めるかなんか考えたことなかった。この教えを守ってるから彼女の構図は気持ちいいのか…