半兵衛

妻として女としての半兵衛のレビュー・感想・評価

妻として女として(1961年製作の映画)
4.0
序盤こそスローテンポであまり面白くなかったが、高峰秀子と淡島千景二人のキャラクターと彼女たちの背景が明るみになっていくにつれエンジンがかかっていき面白さが加速していく。ホームドラマらしい日常風景の物語から、正妻と愛人というそれぞれの立場におけるストレスを繊細に浮かび上がらせそれが後半の爆発と対決に繋がっていくスマートだが人間をシビアに描く語り口はまさにベテラン・成瀬巳喜男の真骨頂。

尊大だけど夫の対応に不安を持つ正妻の淡島千景、チャキチャキだけど女性として繊細な一面を持つ愛人の高峰秀子、大学教授らしくインテリでエレガントだけどその実は妻と愛人どっちの関係も清算できずに十数年もずるずると続けるダメ男な森雅之とメインの三人の好演もドラマを大いに盛り上げる。特に森のダメ男演技はあまりにも板につきすぎて何か笑えてくる。

成瀬映画のポイントを押さえた常連・中北千枝子の安定した演技、夜の世界で働く女性役にぴったりな水野久美&淡路恵子、森と高峰の不倫現場をシニカルに茶化す二瓶正也(イデ隊員)と西條康彦(一平)、高峰をそれとなくサポートする仲代達矢と他の役者陣の演技も素晴らしく大人のドラマにぴったり。淡島と森の子供を演じる星由里子と大沢健三郎の使い方も上手く、前半は両親たちとワイワイ騒ぐだけの賑やかしキャラかと思いきや後半重要なキャラとして浮上し物語の中心に浮かび上がるのが巧妙。

成瀬映画としては珍しく照明が全面に出ていて、光と影の使い方でメイン三人の関係性を出しているけど高峰ばかり影をあてて「日陰の女」を強調するのはやりすぎではと思ったり。でも終盤自分達の秘密を知った子供達に当てられる線路の赤ランプが何かを決意する子供の心情を浮かび上がらせる演出には痺れた。

ヒートアップした三人のドラマが、子供の選択によりタイトルごと意味の無いものとして消えていくラストに戦慄する。
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