ミシンそば

地下水道のミシンそばのレビュー・感想・評価

地下水道(1956年製作の映画)
4.0
アンジェイ・ワイダ監督の抵抗三部作の二作目。
ハードルは結構高かったけど聞きしに勝る傑作だった。
背景にあるのが、筆舌に尽くしがたいほどの大破壊があったワルシャワ蜂起における市内の計画的破壊なので、都市燃えまくり爆撃されまくり(10月5日一応の終結で、作中時間軸が9月26日以降なので、“詰んでる”ってことに気付いている人も結構いることだろう)。

地下水道に入るまで結構長いけど、包囲されている状況と銃撃・砲火が間近に絶え間なくあるゆえに逃げ道の無さはどこであろうと大差はなく息苦しい。
ドイツ軍の珍妙な自爆戦車(ゴリアテっていうらしい)も出てくる。
だから紛れもなく戦争映画ではあるんだけど、地下水道に入った時点で、この映画の表情は完全に一変する。

閉塞感はもともとあったそれと比べてさらに強化され、中の汚水の中を歩く水っぽさや狂気に取り憑かれる者が出てきたりと、ホラー映画的な様相も帯びてくるのだ。
不思議なものである。それを発生させているのは敵軍の悪意であって超自然的な物は一切含まれてはいないのに。
そう感じられるのは、脚本のスタヴィンスキの実体験が盛り込まれたからか。
地下水道に入った時点でもう終わりなのに、地下水道に入るしかなかった。
そんな絶望しかない状況の戦争映画は数あれど、ワイダとスタヴィンスキが示した形は、単純な戦争映画として受け取るべきではない何かを宿している。
時代が少し違うことも含めて、「世代」との温度差はかなりえぐい。