アニマル泉

悪魔の街のアニマル泉のレビュー・感想・評価

悪魔の街(1956年製作の映画)
5.0
鈴木清順の非凡さが発揮された初期の重要作。クレジットはまだ鈴木清太郎、第3作であり、初めての暗黒ノワール物だ。白黒スタンダード。
早崎(河津清三郎)が尋ねる貴美子(由美あづさ)の仕事場はガラス越しの写真スタジオだ。遠山(山之辺閃)の組事務所は地下にあり路上はガラス窓になっている。早崎が襲う場面は当然割れて、地下からの割れたガラス越しの無人のショットが印象的だ。後に清順印になるガラス越しショットが鮮やかに頻出する。
公衆電話での殺人場面も鮮やかだ。木本(三島謙)が電話中に背後から黄(富岡純)が忍び寄り、公衆電話のノブ穴から拳銃で撃つ、ガラスごしに木本が硝煙の中で崩れ落ちる、実にシャープだ!王深(久保晶)の大邸宅のプールで捕まった久保刑事(宮崎準)が殺される場面も鮮烈だ。プールの水面に逆さに映り込む早崎、そこへ銃撃音と絶叫と水没音がオフで響いて画面は波紋だけになる、波紋が落ち着くと久保の死体が浮いている、素晴らしい!
冒頭の大庭(菅井一郎)の脱走場面は車のサイドミラーが効果的だ。この場面は逃走する車がまず刑務所の門から離れて止まる、この距離感から描くのが上手い。義手は清順らしい。
雨も清順らしい。夜に降り出す雨がいい。
清順といえは階段だが、本作にも階段や高低差が頻出する。
早崎の裏切りがバレて倉庫で処刑されそうになる場面、アクションで体重計の針がグルグル回る、銃撃で麻袋の中身がこぼれ落ちる、積まれた袋の隙間を逃げるアクション、この場面は弟分の赤木(芦田伸介)が早崎を追い込む切ない場面だ、このあたりの活劇も素晴らしい。
アングルショット、真俯瞰、ドンローアングルのショットが初々しい。
早崎が佐々木刑事(河野朝武)に病院の廊下で密通する場面、手前からの煙草の煙と灰皿で監視されている事を示すのも面白い。
ラストはラオール・ウォルシュ監督の「白熱」のような製油所での大活劇だ。逃げる大庭は拳銃を撃ちまくるが、追う警察は大爆発の恐れがあるから発砲できない。大庭は精油タンクをよじ登っていく、清順の十八番になる高低差の主題だ。ドラム缶が積まれた隙間での活劇、ドラム缶を転がしておびき出そうとする。ラストは清順スタイルでは高低差の対峙になるはずなのだが、本作では門に向けた平場の撃ち合いで決着する。門扉ごしに大庭が崩れ落ちる。
本作が異色なのは早崎が悩みまくるヤクザである事だ。踏切の場面で「もし強奪に失敗したら?」と妄想する、だんだん日常と妄想が判然としなくなってくる。
清順作品は円と矩形のイメージが氾濫するが、本作はビリヤードだ。
芦田伸介が瑞々しい。
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