Omizu

ニュールンベルグ裁判のOmizuのレビュー・感想・評価

ニュールンベルグ裁判(1961年製作の映画)
5.0
【第34回アカデミー賞 主演男優賞・脚色賞受賞】
『招かれざる客』などの名匠スタンリー・クレイマー監督が1959年に放送されたテレビドラマをもとに脚色した作品。ジュディ・ガーランドは『スタア誕生』以来7年ぶりの映画界復帰を果たし、アカデミー助演女優賞にノミネートされるなど再評価された。ゴールデングローブ賞では監督賞と主演男優賞を受賞、アカデミー賞では作品賞をはじめ最多11部門でノミネートされ、主演男優賞(マクシミリアン・シェル)と脚色賞を受賞した。

素晴らしい作品だった。三時間という長尺にも関わらず全く飽きることはない。軍事裁判というものが持つ恣意性、正義とは一体何かを今一度考えさせられる傑作。スペンサー・トレイシー、バート・ランカスター、マレーネ・ディートリッヒ、ジュディ・ガーランド、モンゴメリー・クリフト、マクシミリアン・シェルと考えられないほど豪華なベテラン俳優たちが見事な演技を見せている。

ナチス政権下の判事たちを裁くニュールンベルグ裁判の裁判長として地方裁判所のダンが選ばれ現地へ向かう。その判事たちの中には世界的な名声を得ているエルンスト・ヤニングがおり、素晴らしい功績がある一方でナチス政権下の法務大臣として断種法を施行した。

それぞれがそれぞれの正しさを持っている。当たり前だけど忘れがち。戦勝国が敗戦国を裁く、そこにはどうしても歪みが生まれてしまう。結局は正しさよりも正義をもって裁くしかないという難しさがある。

判事たちの中でも態度に差はあって、根っからヒトラーを信奉している者もいれば、「これは過渡期だ」として受け入れざるを得なかったヤニングのような者もいる。

マクシミリアン・シェル演じる弁護士は言う。「ドイツだけが悪いのか。ヒトラーの『わが闘争』を世界中の人が読んでいた。ヒトラーの演説を世界中が聞いていた。チャーチルはヒトラーを賞賛するよう言葉を残している。ヒトラーを止めなかった世界は悪くないのか」と。

この映画でもこれから始まりつつある冷戦への裏取引が暗示される。そして戦争は現在進行形で進んでいる。主義や宗教の違い、国家間の軋轢によって戦争は続いている。その結果犠牲になるのはいつも弱い者からだ。

今も通用する複雑なテーマを非常に上手く描いている。ぐるりと回るカメラワークも素晴らしく、丁寧な演出も言うことない。

役者ではマレーネ・ディートリッヒに舌を巻いた。実際にヒトラーから逃れて亡命した彼女、戦犯として夫を処刑されたドイツ人としてのアイデンティティとダンへの個人的な好意の間で引き裂かれる様は見事としか言いようがない。最後、ダンからかかってきた電話のシーンで映る彼女に胸が引き裂かれそうになった。出てはいけないと言い聞かせているよう。抑えた中にある激しい葛藤をこれ以上ないほど表現している。やはり彼女は大女優なんだ。素晴らしい。

正義とは何かを自問自答し彷徨うスペンサー・トレイシー、法律家としての自身と向き合わざるを得ないバート・ランカスター、尊敬するヤニングとドイツをかばうあまり行きすぎた弁護をしてしまうマクシミリアン・シェル、それぞれ素晴らしい。

ただ長いだけの裁判映画、と思っていた自分が恥ずかしい。テーマの重要性はもちろん、映画としても見事としか言いようがない大傑作。全人類みるべき作品。
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