むぅ

シェルブールの雨傘のむぅのレビュー・感想・評価

シェルブールの雨傘(1963年製作の映画)
3.8
「たった一瞬、完璧な美しさを持つ絵画みたいになる時があるんじゃないかなって」

雨の日。
渋谷TSUTAYAのスタバから、スクランブル交差点を行き交うカラフルな傘を見ながら彼氏が言った。



と、友達が言った。

今なら「素敵!!」だが、
あの頃は「きっきざ!」だった。
でも不思議とその言葉は私の中に刻まれた。以来、雨の日に高いところにいる時、そんな瞬間に出会えるのではないかと思いながら見ている。
その瞬間に出会えたと思えるオープニングだった。白眉。

フランスのシェルブール
自動車修理工のギイと雨傘屋のジェヌヴィエーヴは結婚を誓ったが、ギイは戦争に召集され....。

「どうして彼は遠くに行ってしまったの」
あの有名なメロディに乗せつつ、ついでに違うメロディにも乗せつつ、何ならずっと言うので
「だから兵役だってば」
と2本目の缶チューハイを開けた。
もちろん彼女の"どうして"が、彼が遠くに行った理由を指す"どうして"ではない事くらい百も承知である。
いけない、メロドラマと知って観ているのだからそんな事に突っ込むのは野暮というもの。
そもそもメロドラマ、最近まで語源は"メロメロ"だと信じて調べもしなかったが、ギリシア語の"メロス(歌)"に由来し、甘ったるい扇情的な音楽とともに上演される感情の起伏を誇張した恋愛劇のことだと知ったのはわりと最近のこと。
だとしたら、『シェルブールの雨傘』見事なまでにどこまでもメロドラマだ。
メロメロと、そしてメラメラとあげた温度をラストシーンでスンッと下げてくるところも良い。

映画を観る際の前情報として
「グロいよ」
「人いっぱい死ぬよ」
なんかよりも、はるかに強烈な
「 台詞、全部歌だよ」
に若干怯えていたが、全く慣れなかった『梨泰院クラス』のパク・ソジュンの前髪よりは圧倒的にすぐ慣れた。
それはファッション、小物、壁にいたるまで全ての色彩が素敵で、絵画や絵本の中に入り込んだような感覚になれる美しさが大きかったかもしれない。
缶のままの氷結無糖と柿ピーを、グラスとお皿に移すべきなのではと迷うくらいには。

もうすぐ雨の季節。
新しい傘が欲しい。今まで持ったことのないようなカラフルな傘を買ってみようか。
カラフルな傘たちで出来る一瞬の絵画を探すのも良いし、その絵画の一部になっているのかもしれないと思いながら歩けば雨もきっと楽しい。


ミュージカルそんなに得意ではなくて、という方にお伝えすべき事は2点。
・ずっと歌う
・ずっと踊らない
むぅ

むぅ