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野性の夜にの一人旅のレビュー・感想・評価

野性の夜に(1992年製作の映画)
4.0
シリル・コラール監督作。

HIVに感染したカメラマンと17歳の女性の愛を描いたドラマ。

HIV・AIDSを題材にしたフランス映画で、第18回セザール賞最優秀作品賞受賞。監督・原作・脚本・主演は本作製作の翌年、1993年にAIDSにより死去したシリル・コラール。実際にAIDSを発症し死の淵に立たされていたシリル・コラールが、孤独と絶望の中で愛することの意味を見出していく主人公を熱演。劇中、ヒロイン(+一部男性)とのキスシーンが何度もあり、その都度ドキッとさせられる(※HIVは基本的にキスでは感染しませんが、口内出血していると危険)。
恐らく、HIVを取り扱った作品の中ではトム・ハンクス&デンゼル・ワシントン共演の『フィラデルフィア』(1993)やブラッド・レンフロー主演の『マイ・フレンド・フォーエバー』(1995)が最も有名でしょう。ただ、『フィラデルフィア』が“HIV患者VS社会の偏見”を主題にしていたのに対し、本作はHIV患者に対する社会からの直接的な偏見はほぼ描かれない。HIVの恐怖と絶望が画面に充満していながら、あくまでこの映画に描かれるのは男女の愛情である。

バイセクシャルでHIVに感染したカメラマンのジャンと、17歳の女性ローラの出会い・衝突・愛を、柔軟なカメラワーク&自由な編集で描き切る。ジャンは自分がHIVに感染していることを知りながら、それを隠してローラと肉体関係を結ぶ。この行為は大変危険であり、愛する女性に対する大きな裏切りである。この時点でジャンに対する同情の気持ちは消え失せるが、シリル・コラールはそれを前提にした上で、HIVの恐怖に直面しながら人を愛することの儚さ・難しさを切実に訴えている。誰かを愛する上で性行為は必然であり、それはHIV患者とて同じ。自分の病気を愛する人に伝えれば、即座に拒絶され関係を断ち切られてしまうかもしれない。しかし、人を愛するからには人並みの愛し方(セックス)を貫き通したいのも人間の本能。HIVと愛、二つの狭間で苦悩した挙句にジャンが選択する行為は、客観的に見ればたとえ間違っていたとしても、それは人を愛する男の素直な感情の表れに他ならない。ジャンの行為を一蹴してしまうのは簡単だが、実際にHIV感染者であるコラール監督の痛みが映画に反映されているのかと思うと、そう簡単には片付けられない“重み”がある。

ひっきりなしに画面が転換するため、少し物語のまとまりに欠ける印象を受けるが、HIVの死と恐怖を男女の愛情が打ち勝っていくさまは希望的で、圧巻の力強さ。嘘偽りのない愛情は、それを脅かす如何なる障害さえ凌駕する。

シリル・コラールの魂の叫びとも言える熱演に言葉を失うが、ローラ役のロマーヌ・ボーランジェも新人女優とは思えないほどの迫真の演技を魅せる。純粋さと若さゆえの危うさを秘めた演技に圧倒されるのだ。
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