ずっとオートバイに乗りたかった
自分の中のあるものが弾けたあの2月、意を決して400ccの単気筒にまたがった
春、夏、秋とターマックの林道、高速、峠をひた走った
ひとりで風と雨と戯れた
革で躰を覆い、空を見上げてシールドを選び、デコンプし、蹴り出し、木陰で信号が変わるのを待ち、エンジンでかじかむ手を暖め、点火系をいじり、オイルを抜いては換え、天竜川を上り、佐渡に渡り、奥多摩から長瀞へ抜け、夜の日本海の波頭と並走し、タンクと膝とを同化させ、ヘルメットの中で叫び、安宿の湯舟に安堵し、いくつもの滝を見上げ、ステップを路面で削り、廃工場近くのトンネルに怯え、地図を塗りつぶし、失った恋とはちがう恋を見つけ、いったんバイクを降りた
16歳から17歳へのレアセドゥ、オートバイ、電話越しの父の声、姉のピアノ、母の補聴器
喪う渇く迷う盗む隠す脱ぐ憧れる騙る招く喫う交ざる走る祈る試す飢える背く騙す気づく逃げる甘える覚める失う濡れる泣く溶ける
フランスのロックはどこか可笑しく偽物な感じがする
その痛々しさが主人公と重なる
こちらは恋を描いてはいないけれど、「ホットロード」と同質の空虚を感じた
優しい横顔、風、雲が流れて柔らかな陽射し