スギノイチ

絞殺のスギノイチのレビュー・感想・評価

絞殺(1979年製作の映画)
3.5
割かしリアル調な「家庭内暴力パート」とアート調のいかにもATG的な「青春パート」に分かれていて、演出のタッチも全然違う。
しかも、途中で2つの世界が混ざり合い、わけのわからない事になっている。
その結果、社会問題を扱っておきながら、この世のどこにも存在しない魔界の話と化している。

音羽信子の過剰なスキンシップを伴った過保護ぶり。西村晃の根拠なき権威主義、学歴主義の浅薄さ。
雪原の中、ナックル星人に張り付けられた新マンみたいな恰好した女と情交する狩場勉。
『日本の黒幕』に続いてこれでは、狩場勉の床事情に同情してしまう。
それ以降、狩場勉は暴走してしまい、養父に汚されて死んだ女の弔いをするかのように父親を殴り、ついには母親を犯すに至る。
出所後、西村晃は音羽信子を犯し直してかりそめの父性を取り戻すも、音羽信子は自殺。
ボロボロの家に加藤登紀子の『鳳仙花』が鳴り響く。

凄まじく暗いが、要所要所で実験映画的な演出を入れているせいで社会派映画的なリアリティは無い。
彼女が死んだ後のクラスメイトが漫画的なまでに冷淡だったり、バイトの若者の用意されたかのような非道徳ぶりとか、「ああ、オッサンが考えた若い世代だな」という感じなのだが、70年代の若者は本当にこうだったんか?
テーマである家庭内暴力をふるう狩場勉の動機や言動が観念的なのもそうだ。
「こんな家、砂上の楼閣だ!」なんて言いながらバットを振り回している。こんなやついるのかよ。
何か事件が起こる度にいちいち天井桟敷的に集まってくる近所の野次馬(小松方正だの殿山泰司だの草野大悟だのがいる)の不気味さも、この映画の魔境ぶりに拍車をかけている。
でも、こんな一家が隣にいれば確かに見たくなるかもしれない。
現にこの映画、すげえ面白かったもの。
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