ベビーパウダー山崎

哀しみのトリスターナのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

哀しみのトリスターナ(1970年製作の映画)
4.0
片方の足を切り落とし、その欠けた身体が心のバランスまで崩していく。ドヌーヴが父親でもあり愛人でもあった老いた男に復讐するのは結果でしかなく、共に暮らしていく原作のラストをブニュエルが嫌がり、だからと言って一人死ぬのもどうかと思ったが、まあこれしかないという二人の末路。その後に短くて早い回想が入ってるのが異様で凄い。あれなんなんだろう。そのすべてが不幸な夢だったようにも見えるし、幸福な、まだ「健全」だった若者の時まで遡るのがとても切なく思える。たけちゃんの『あの夏いちばん静かな海』のダイジェスト的なラストはこれをやりたかったんではないかと俺は睨んでいる。
それにしても、人間の複雑さが善意ではなくひたすら悪意に歪んでいくのがたまらない。片足しかないドヌーヴが口のきけない使用人の息子に全裸を見せつけるサディスティックなくだりのインパクト。障がい者が障がい者にマウントをとるグロテスクな構図。すでに倫理や道徳が狂っているのがよく分かる。大きな話ではなく、ひっそりとした関係性にも上下があり、人生の被害者のドヌーヴにも近寄らせない(安易に共感させない)強さがある。
こういった映画(物語)って表現するとなると実際かなり難しいと思う。老人が神父たちと話している間に廊下を片足で行ったり来たりしているだけのドヌーヴのくだり、神の救いなど一切ないと訴えているような、怖いしほんと最高。見る度に新しい発見がある大好きな映画。