田山信行

らせんの田山信行のレビュー・感想・評価

らせん(1998年製作の映画)
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映像化としては『リング』よりも完璧な出来なんだよ。オカルトとしての呪いのメカニズムを今度は科学的な見地で解明していく。原作の構成を忠実に90分にまとめ上げてオカルトからSFへのジャンルの転換を原作同様に成し遂げ、しっかりと理解が及ぶものになっているのは驚異的。

ただ『リング』はホラー映画としてチューニングした内容になっており原作のミステリ要素がかなり薄まっている。呪いのビデオが作られたメカニズムすら解明していない。念写という言葉すら出ていなかった。特に大島に渡って以降はすべてオカルトへ振ってしまった。高山がサイコメトリーするとか急に突飛になる。一応原作でもオカルトとはいえ理詰めはきちんとしている。

なので原作に忠実なこの『らせん』の方と微妙に接続が上手くいっていない。同時上映によるデュアルホラーという構成にしたのは英断だが、当時の宣伝などの触れ込みではがっつりとホラー映画推しであった。もう少し擦り合わせが必要だったのかと。

だが「幽霊の正体見たり枯れ尾花」的な展開を望む人間が少ないか、結局どんなに完璧に仕上げたとしても観客側が発想の転換にまで至らないのかもしれない。かくいう自分も当時劇場で観た時には受け入れ切れてなかった。そういうひっくり返し方されてもなぁ〜……という。やはりがっつりホラーを観たいという意識だったし。

『リング』は中田秀夫、高橋洋、鶴田法男らが構築してきた実話ホラーテイストの完成形として作り上げられた側面もあってJホラーブームを巻き起こすエポックメイキングな名作であることは間違いないが。

『らせん』との構成のウケが芳しくなかったせいで、日本のホラーがオカルトから抜け出せない閉塞感を今現在にまで決定づけてしまった感もあり。制作側の目論見としても当てが外れたのであろうが。では観客が望むのはホラーテイストの続編だと『リング2』を作ったことでそれをより強める結果に。改めて考えると『ループ』も映像化不可能というより更にSF路線を作ってもウケないと判断したのもあるのかと。

本作以降の映画での貞子は全く意図が不明になっていく。恐怖たる存在はこの世に恨みと死を撒き散らすだけであるという単純な存在に押し込められSNSやYouTubeもやるような安いホラーアイコンとなってしまった。いや、もはやホラーですらなくなっているという。

余談になるが『リング』『らせん』を通して観て一番ビクッとしたシーンが佐藤浩市さんが怒声を発するところ。ジャンプスケアを狙った訳ではない筈だが。その後にもホラーではない映画にて、また佐藤浩市さんの怒声にビクついたので俺の心臓には佐藤浩市の怒声がとても刺さるものであるようだ。
田山信行

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