Ray Bradburyの“Fahrenheit 451”(1953)を原作にしたFrançois Truffaut脚本監督作。
共同脚本にJean-Louis Richard。
オープニングのタイトルバック。
いろいろな家屋の屋根の上にあるテレビアンテナにカメラがグィ〜と寄っていく。
そこにはクレジットの文字は出ない。全てナレーションで紹介する。
なんとも変わったオープニング。
はじめ、本編前に別の作品の予告編でもついているのかと思って早送りしてしまった…。
この映画の世界では文字が禁じられているから、タイトルに文字を出さないで音声で…ということのようだが…
文字が禁止なの!?
書物が禁止なんじゃないの?
文字自体が禁止な世界なの?
手紙も禁止なの?
この世界の子供たちを、どうやって教育していくの?
レストランのメニューは?
どうやって注文するのよ?
写真だけで選ぶんですか?
しょうゆ味なのか塩味なのか…写真だけで想像するんですか?いちいち店員さんに聞いていたら、ものすごく非効率だと思うんですけど…
やはり多くの人に同じように理解してもらうためには文字は必要だろ?
原作未読だが、文字を禁じた世界ではないと思うけど…そういうことじゃないと思う。
ベッドで新聞のようなものを読んでいるシーンが出てくるが、文字がない漫画のようなものを読んでいた。漫画はOKなの?文字なし漫画って面白いのか?永遠にパントマイムで伝えるの?そりゃ伝わらないよ。
これから原作も読むが、レイ・ブラッドベリの意図と既にズレてるような気がする…
○モノレール
懸垂式モノレール。
駅が見当たらない。いきなり停まると、天井裏の隠し階段のように、お腹の部分が開閉して階段に…これは、なかなか面白いデザイン。
このモノレールは1959年にSAFEGEがChâteauneuf-sur-Loireに建設したテスト路線なのだとか…試験線のため全長が1.4 kmしかなく、撮影のために何度も往復させている。
試験終了後に撤去されてしまったので、映像資料としても貴重なのだとか…
三菱重工業はSAFEGE式の発展型を開発。
千葉市の千葉都市モノレールと、鎌倉の大船駅から藤沢の湘南江の島駅間の湘南モノレールの2路線で運行されている。
試しに乗りにでも行ってみよう。
○道
トリュフォーと撮影中に揉めたらしいOskar Werner演じる主人公モンターグ。モノレールで近所の女の子に話しかけられて、そのまま一緒に降りて歩いている。
”Doctor Zhivago“(1965)でラーラを演じたJulie Christieが、この女の子クラリスと、モンターグの妻リンダの一人二役を演じ分けているのだが…
なぜ二役にしたのか?意味があってのことだろうけど…狙いが掴めない。
クラリス
「本当なの?昔、消防士は火を消すのが仕事で、本は焼かなかったとか…」
モンターグ
「確かに君はイカれてる。火を消すと誰が言った?」
ん〜。日本語の漢字とは、よくできてる。ここで【消防士】という字幕だと…日本語の文として意味が分からなくなる。
現実世界の消防士が…映画の世界では役回りが変わり、本を焼くことが仕事なのだと言いたいのは分かるのだが…
この映画の設定からしたら、彼らは本を焼くことが仕事なのだから、ここで「消防士は…」と使ってしまうのは…ちょっと何言ってるかわからないサンドイッチマン状態。
【消防士】という漢字で消すのが目的だと分かるやろ?となってしまう…日本語の漢字は字面を見ただけで理解できるようになっている。
この映画では、もはや役割が違うわけだから、消防士ではなく他の日本語なり漢字なり、カタカナなりを字幕にあてるべき。
原作の新訳では【昇火士】にファイアマンとい
うルビがふってある。
「昔、昇火士は火を消すのが仕事で、本は焼かなかったとか…」
これならわかるけどね。
英語では”fireman“と言ってるわけだし…そのままカタカナで「ファイアマン」でも良かった。
旧訳だと【焚書官】
焚書(フンショ)
→書物を焼却すること.特に,書物に記された思想を禁圧し,その流通,伝播を抑止する目的で,為政者,権力者が公開の場で当該書物を焼却する行為,儀式.秦の始皇帝の焚書坑儒(前213)以来,ナチスドイツの焚書(1933),中国文化大革命の焚書(1966)にも見られるように,歴史的にほとんど途絶えることなく続いている思想・言論の弾圧・統制手段であり検閲・禁書の極端な形態である.書物が大量に安価に生産される時代にあってはすべてを焼却することは不可能であるが,弾圧・統制の象徴的な意味を持って行われる.
焚書官が一番しっくりくる。字面もいいし。
【消防士】は現実の世界の呼び名だから。この現実とは違う役割をしてる設定なんだから使うべきでない。
字幕ひとつでニュアンスや、捉え方、受け取り方が変化してしまうので、微に入り細を穿つ覚悟で取り組んでもらいたい。
この字幕を担当した人は原作すら読んでないと思われる。仕事の一環として原作くらいは読むべきだろ…
モンターグ
「本はガラクタだ。何の役にも立たない」
クラリス
「危険なのになぜ読む人がいるの?」
モンターグ
「禁じられた反動だ」
クラリス
「なぜ禁じるの?」
モンターグ
「人を不幸にする」
クラリス
「そう思う?」
モンターグ
「そうさ。本は民衆を動揺させ反社会分子に変える」
禁酒法が当たり前に行われてた時代もあるし、ヒロポンが普通に買えてた時代もあるし、大麻も合法の国が増えてきてるし…政策や規制、民意あらゆることが混ざり合って、この先どうなるか分からない。
ただ何が怖いって現実世界では、この映画のように焚書官が本を焼かなくても、自ら本を読まなくなってしまっている今の状況だろう。
日々、秒単位で様々な刺激に侵され…ゆっくり本を読む時間さえもない。
簡単に手軽に読めるものにしか手を出さなくなって、究極はレビューだけで読んだ気になってやしないか?
なんだか…恐ろしい時代がやってきそう。
思考停止。
自分で物事を考えることをやめてしまった。
クラリス
「本を読んだことは?」
モンターグ
「まさか…興味ないね。くだらないし、禁止されてる」
クラリス
「幸せ?(と立ち去る)」
モンターグ
「そりゃ幸福だ」
○モンターグ家
リビングで嫁リンダがテレビを見ている。
このテレビが薄型テレビで、まさに今のテレビと同じカタチをしている。
テレビのキャスターのような人
「本日の都市地区での出勤と焼却の成果は、普及本1248キロ、初版本378キロ、原稿7キロ、すべて焼却されました」
オープニングで本を回収する時に初版かどうかの確認なんてしてなかったけど…すぐ袋に入れて焼いてた。それはいい加減なんじゃない?
「初版本378キロ」という台詞を言わせるなら、せめて、初版本かどうか確認するショットは必要じゃない?
確認もせずにバンバン焼いていたんだから、初版本何キロとか言わせないで、「〇〇地区で何冊」とか、「〇〇地区で一件」とかにした方が良かったような…
○モンターグ職場
仕事から戻るモンターグたち。
登り棒?滑り棒?ポールに身体を寄せると、ヒューっと上に吸い寄せられるように登っていく。
なにこの原理?どうなってんの?画としてオモシロイけど…現実では殆どの消防署で、このポールは廃止されているけどね…効率が悪いらしい。いっぺんに階段で降りた方が早いんだとか…
○モンターグ家
仕事から帰宅すると、一冊の本を隠すモンターグ。
ここの変わり目が弱い!というか突然変異のよう…
法を遵守して仕事に勤勉で昇進までしようとする男が、突如として法に背くのか?その背景は何なのか?きっかけは?ここが肝のはずなんだけど…
なんとなく持ってきたの?
なぜ本を読んでみたいと思った?
興味なかったはずなのに…
その心変わりした瞬間を描くべきじゃない?
燃やす時にチラッと一文が目に入ったとか…
人が、大きく変わる瞬間なのに…
いきなり、ヌルッと本を持ってきてしまう。
1冊目に読むのが…
Charles Dickens著
”David Copperfield”
○カフェ
なぜクラリスにモンターグが付き添わななくてはいけないのか?学校に荷物を取りに行くだけなのに、一緒に行きたくないとクラリス。
モンターグの職場に仮病の電話を入れるクラリス。
なぜクラリスとモンターグが、そこまで接近してるのか描けてないんだよなぁ…
○モンターグ家
こっそりと読書に耽るモンターグ。
それを見てしまう妻リンダ。
本を隠してる場所も知っていて、そこから大量の本を出すと、物音でモンターグが詰め寄る。
モンターグ
「何してる!」
リンダ
「ウチに本が!よして怖いわ」
モンターグ
「君は壁の家族と人生を過ごせばいいさ!僕の家族は本だ!」
もう?そこまで!?
全く読書をしたことなかった人が?
「僕の家族は本だ!」は言い過ぎでないの?
ディケンズがよっぽど良かったのか…
時間経過の描写が分かりにくいというか、随分と突発的に時間が飛んでいる。ワープしたような感覚。
モンターグ
「本の背後には人間がいる。それに惹かれるんだ!」
もう上級者じゃん!読書初心者がここまでの感覚になれるか?どうなんだろう…想像するしかないのだが…
普段SNSに忙し過ぎて、本を全く読まない若手を知ってるが、その男にディケンズの”David Copperfield”を「読め!」と渡しても、「無理ッス。ムズいっすよ」で終わりだと思うけど…
読んだことないんだから、この反応が正しいと思うけど…
「僕の家族は本だ!」
「本の背後には人間がいる。それに惹かれるんだ!」
これは、さすがに飛躍しすぎでないか?
こうなる過程を、もっとゆっくりと見せていく必要があるんじゃないかな…
○モンターグ職場
警報が鳴り、慌てて出動態勢に入る面々。
これ緊急性ってあるのかしら?別に急ぐ必要なくないか?本が逃げるから?犯人が逃げる?それを追うのは警察の仕事だし…あなた方は本を焼くのが仕事なんでしょ?
焦る必要が全くないような気がするのだが…
○秘密図書館の家
隊長
「思想家や哲学者は同じことを主張。自分は正しく他の者はバカだと…人間の運命は決定されてると説いて、時代が移ると選択の自由があるという。哲学は流行に過ぎん。今年の服は丈を短く、来年は長くというのと同じだ」
いいこという!
「今年の服は丈を短く、来年は長くというのと同じだ」
これねぇ…40歳になってというか長く生きて気づくというか、やっと達観するというのか…
極太ワイドパンツになったり、ピタピタスキニーパンツになったりで、一通り経験すると、結局、誰かが作った流行でしかないということがわかる。
その一部に踊らされてるのも何だかバカバカしくて、よりクラシックなスタイルを求めてしまう。
現在のどデカTシャツも今年には終わるんじゃないか?若い世代は全然いいと思うけど、オレより歳上のいい歳した先輩が、今年は4Lだからとか言ってるのを聞くと何だか情けない気持ちになってしまう。
いいんだよ…別に個人の自由だからなんだって……でも…それを、さもありなんで「今年の夏は4Lだから!」とドヤ顔で言われても…
「あっそうですか…」としか言えません。
時代が移ると、今度は「ジャストサイズだから!」とか言うんだろうなぁ…結局、あなたが一番流行に流されてるだけだということをナゼ理解しないのか…それが一番カッコ悪いことなんんじゃねぇの?
隊長
「死んだ人間の物語は"自伝”と呼ばれる。"わが人生"”わが日記””わが私的な思い出”…書き始めたときは純粋な衝動があったろうが、何冊も続くにつれて、虚栄を満足させる道具と化し、他の人間を見下す。批評家賞作品、こりゃいい。批評家を味方にしたラッキーな作家だ。聞くが、毎年、文学賞がどのくらいあったと思う?5、10、…40か?1200もあった。紙に字を書けば何らかの賞がもらえた」
これは強烈な皮肉。
あながち間違っていないところが恐ろしい。
本から離れないおばちゃん。
”The World Of Salvador Dali”
by Robert Descharnes
風でペラペラとめくれる。
ダリの作品集のこの本、良さげ。
○モンターグ家
妻リンダが通報。
そうとは知らずに出動すると、自分の家へ到着。
覚悟を決めたか…隠してる本を自ら差し出すモンターグ。
物凄い量…
火炎放射器を渡され、自ら燃やせと…
隊長
「小説は人生じゃない。印刷物に何を望む?幸福か?あわれなバカ者め。よく考えろ!書物に書かれてる幸福は矛盾してる。その不条理を焼き尽くすのだ。人類の幸福のためだ」
これを見てオレも昔、家の本を大量に燃やしたことを思い出す。
大量の本を駐車場に投げ落として、そこで焼いた。
離婚した親父が残していった本だから、憎さもあったのか…なんの気もなしに、友達と焚き火がしたいという理由だけで、その火種となるものならなんでも良かったのかもしれない。
しかし、いま振り返ると、住宅街で轟々と燃え盛ることをよくやったな…
いまならソッコーで通報されるよ。物語の世界であれば焚書官が来て表彰ものだけど…現実世界では大騒動だろうなぁ。動画も撮られて、アップされるだろうし…よかった緩慢な時代で。
というか大罪やなぁ…そのあと、取り返すように本を買い続けてるわけだが…なんなんだろう…
しかも、読み切る時間がない。
死ぬまでに全部読めないのでは?
すると、なんのために買っているのか、もはや自分でもよく分からないことに…
お腹に隠し持っていた愛読書がバレて、取り上げられると、それを奪い返すモンターグ。
すると、隊長に銃をむけられる。
火炎放射器で隊長を焼き殺すモンターグ!
こ、こ、これは、”Once Upon a Time in... Hollywood”(2019)のレオ様が演じたリック・ダルトンじゃないの?!ネタ元はここか?オモシロイ。
○森の中
本を丸暗記してる人たちが暮らす。
モンターグが辿り着くと、すぐさまテレビを見せてくれる。それはモンターグが銃殺されるシーンなのだが…
そもそもこの場所はクラリスから聞いたんだよね?クラリスが行きたがってた理想郷のような場所だよね?そんなクラリスの家にはテレビのアンテナが無いという描写が前半あったと思うが…
モンターグも、テレビを「壁の家族」と揶揄する程に嫌ってたでしょ?なのに、なぜ真剣にテレビを凝視してるのか?
森の中に来るなり「テレビあるんかい!」ってツッコミを入れてほしかった。
テレビの映像で、現況を見せて伝えるというのは、まさに批判してた側の軍門に下るのと同じことやないの?
これは屁理屈かな…
男
「うわべは放浪者でも実体は図書館だ。本を愛する人間が、たまたま出会い、本を守りたい一心で団結した。荒野に叫ぶ少数の異端分子だ。だがいつかは、覚えたことが日の目を見る時がくる。本が印刷され、再び暗黒の時代がきても、志を継いだ人々が本を暗唱する」
モンターグ
「私も一冊、持ってる(ポケットから本を出す)」
クラリス
「なんの本?見せて…『怪奇と幻想の物語』エドガー・アラン・ポー著」
男
「早く覚えて焼くのだ」
モンターグ
「焼く?」
クラリス
「焼いてしまえば、誰も私達から奪えないわ」
男
「焼くのだ。頭にしまえば誰にも見つからない」
いや…言いたいことはわかるけど…
目的が変わってない?志を継いで、後世に遺すことが目的ちゃうの?覚えるって…一言一句?そんなの覚えられるわけないやろ?!
間違って覚えたら、それこそ作者の志すら継いでなくないか?
だいたい伝言ゲームがそんなにうまいこといくわけないだろうが…
一人何冊覚えられるのよ…
記憶するより隠すべきだろ…
覚える方を推奨するなんて、逆に文学を蔑ろにしてると思うけど…
みんなが集まって図書館という発想は凄いオモシロイけどね…
レイ・ブラッドベリ
「知識と図書館を守るよう人々に訴えかける何かを書きたかった」