オーウェン

恋人たちのオーウェンのレビュー・感想・評価

恋人たち(1958年製作の映画)
4.5
パリ郊外の田園に住むブルジョワ婦人ジャンヌは、息抜きに出かけたパリからの帰り、若き考古学者ベルナールと知り合う。

そのまま彼を邸宅に招いたジャンヌは、夫と娘のある身にもかかわらず、ベルナールに身をまかせ、翌朝、すべてを捨てて、ベルナールの車に乗り込むと、いずこかへと旅立っていくのだった。

このルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」に続く2作目の映画「恋人たち」は、比類なき美しさに満ちあふれた映画だ。

これだけ耽美に満ちた映画を、20代の青年監督が作ったとは、どうしても信じられないほどだ。
当時のフランスのヌーヴェル・ヴァーグの監督たちは、どうも子供っぽい人が多かったが、ルイ・マル監督は異例とも言うべき大人の感覚を持っていた人だと思う。

この映画は、ストーリーらしいものは、ほとんどないのだが、「太陽がいっぱい」「サムライ」などの名手アンリ・ドカエのカメラと、ブラームスの音楽と、そして、主人公のジャンヌを演じたジャンヌ・モローの存在感が一体となって、これぞまさしく高級ブランデーの味わいだ。

とにかく、ジャンヌ・モローという女優は、"風景の中の女"だと思う。
それも、陽の射さない風景がよく似合う。
夜の中、霧の中、朝もやの中、雨の中、曇天の中が特にいい。

この映画「恋人たち」でジャンヌ・モロー演じる貴婦人と駆け落ちする若い男は、女に向かって"いつも夜だったらいいのに"とつぶやく。
ジャンヌ・モローは何よりも夜の女なのだ。

行きずりの若者と貴婦人が、ブラームスの曲をバックに、月の光の下で繰り広げるラブシーンの、息をのむ美しさ。
映画が成し得た、最高に甘美で頽廃的な夜。

しかし、ジャンヌ・モローという女優がいなかったら、果たしてこの映画はここまで美しく、官能に満ちていたかどうか。

刹那の人間の感情の美しさと残酷を浮き彫りにした、心憎い名作だと思う。
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