ゆきゆきて追悼のざわめき

櫂のゆきゆきて追悼のざわめきのレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
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大正から昭和、高知の女衒の妻が長年虐げられて、最後に外に飛び出して行く、という構成だが、その主人公たる喜和の思想が現代的なところが周りと不協和音を生み出していて、それがドラマとなっている。
何でも自分の思い通りにしたがる男、として岩伍を分析することもできようが、それが当世そして女衒の世界の常識的な振舞いに過ぎないことも示唆されている。要するに男尊女卑の根強い文化のお話なのだ。
そこで特異なのは、作中に岩伍が愛人に打ち明けた「母の欠如」の存在であると思う。渡世人である岩伍は、自分が甘えられる存在に飢えていたのではないか? つまりこれは任侠の純文学としても捉えられるのではないか。いずれにせよ身勝手な男に違いないが、ラストの解釈を巡っては、一抹の余韻を感じずにはいられない。孤独で強情な夫婦の終焉を、私はそこに認めた。
五社英雄の作品は、私はあまり観たことはないが、悲愴とエロスを魅力的に描く才覚にあふれた監督だと感じた。特に女性の描き方は、その力強さと繊細さを生々しく表していて、見事だった。