むぅ

君のためなら千回でものむぅのレビュー・感想・評価

君のためなら千回でも(2007年製作の映画)
3.8
「殴って!」

遅刻魔の友人が大遅刻をした。
走ってきてそう言った。

「『走れメロス』か!」
「あれって待ってる側も来ないんじゃないかって疑ってなかったけ?」
「そうだよ、だとしたら私も『走れメロス』だわ。どうせ遅れて来るだろうって思ってた、ごめん」
「じゃあ、ごめん。私も走ったの、むぅに見えるとこから」
「.....」
「.....」
「ビール奢ります」
「それで」

『走れメロス』のように、そこに至る心の背景を伝えていたら、喧嘩になったとしても気持ちをぶつけ合えていたら。
きっと違うストーリーを描けたであろう2人の少年の物語。

1978年 ソ連の軍事介入直前
まだ平和なアフガニスタン。
裕福な家庭のアミールとその召使いの息子のハッサンの間には絆があった。けれども、ある事件をきっかけに2人の距離は開いてしまう。関係修復が出来ないまま、アミールはアメリカに亡命することになって....。

観ようと思ったきっかけは『アイアンマン』だった。
アフガニスタンでの兵器のデモ実験、テロについての描写があり実は結構驚いた。
そんな『アイアンマン』よりは、始まりは爽やかな今作。

アフガニスタンの空に凧が舞う。
行ったことのない、けれどもニュースで流れるたびに心が痛む中東のその国に日本と共通の伝統文化があるのだなと思うと何だか不思議だ。
子供たちが楽しんでいるのは、日本で言うところの"ケンカ凧"のようなもの。相手の凧を落とすところで終わらず、糸の切れた凧を追いかけ取ることでそれがトロフィーになる。
ハッサンは"凧追い"の名手。
凧を見ずに走り、凧が落ちてくる地点に先に辿り着く。
まだ美しいアフガニスタン カブールを走り抜ける姿から『走れメロス』を思い出したのかもしれない。
そんな"風"の読めるハッサンが"空気"まで読まなくてはいけないシーンが心に残る。

あの時、勇気を出していたら。
罪悪感って、染みついてしまう前に何とかしないともう消えなくなってしまうのかもしれない。
罪悪感を持つ、持たないの違いについても考えさせられる作品だった。


黒、赤、緑のアミールとハッサンの凧。
空で戦う凧をアフガニスタンの国旗のカラーにしたのには絶対に意味があると思う。
黒は外国侵略と抑圧の安国、垢は独立運動で流れた血、緑は自由と平和なのだと初めて知った。
100年で20回以上変わっているというアフガニスタンの国旗。
変わらなかったアミール、ハッサンそれぞれの想い。

こどもの日に個人のお宅の鯉のぼりって、本当に見なくなったなと思いながらボーッと空を見た。
それがどれほど幸せなことなのか痛感させられる物語。
むぅ

むぅ