カラン

告発の行方のカランのレビュー・感想・評価

告発の行方(1988年製作の映画)
4.5
1980年代初頭のレイプ事件を下敷きにした映画。集団での強姦を輪姦といい、英語ではgang rapeというらしい。ギャング・レイプとは輪姦というよりも、丸出しの下劣さがよく分かる表現である。

本作はまず司法取引によって、被害者が置いてけぼりになる憤りと不合理を描く。さらに、輪姦した犯人たちに加えて、周囲で囃し立てて輪姦を教唆した男たちの告訴の顛末を描く。

☆女たち

①ケリー・マグギリス

優秀な検察官役で178cmの彼女を見上げて、劇中でジョディ・フォスター演じるサラは「大統領になりそう」と呟く。前作の『トップガン』(1986)よりも、彼女は映画空間に定着しており、信念を貫く自信に満ちた表情できらきらしており、サラに対してクールであるが、慈愛が漏れでてくる眼差しを向ける。

子供もいたが2回の離婚を経て、彼女はレズビアンであることを2009年に告白した。2016年にPTSDに苦しんでいると話した。12歳の時にギャング・レイプを受けたようだ。彼女は前作の『トップガン』で一躍ムービースターになるが、不安と苦悩がつきまとい、彼女から離れることはない。そのケリー・マグギリスの輝かしい姿が本作に力を与えている。こういう彼女のバックグラウンドは、当時は誰にも分からなかったものだろうがトム・クルーズよりも、ジョディ・フォスターとの方が相性がずっと良い。

②ジョディ・フォスター

ジョディ・フォースターは85年にイエール大学を卒業した。トニ・モリソンで論文を書いたらしい。そんな彼女にアルコールとドラッグに溺れる、貧乏なうえに無知で男に対して煽情的に振舞いトラブルを招く女子大生であるサラ役を任せようとは、プロデュサーも思いもよらなかったのだろう。キム・ベイシンガーやデミ・ムーアら無数の女優がオファーを断った後で、ようやくジョディ・フォスターにお鉢が回ったようだ。

本作の製作はトム・トーパーの脚本が先行したのだが、脚本は強度が足りない。特に法廷で弁論はほとんど大学生のケンの証言ありきなのに、ひっぱり過ぎである。英語版のwikiにはこのような脚本の弱さゆえに、ジェーン・フォンダは検察のキャサリン役を拒んだと書いてある。そのような経緯で、ジョディ・フォスターとケリー・マクギリスの映画史に残るコンビができたというのは大変興味深い。そのジョディ・フォスターはひたすら揺れる。自分の意見が受け入れらなくて顔を前後にゆする。相手のほうに一歩進み出た拍子に、1.5歩くらい足踏みする。

もっとも感動的なのは、ギャング・レイプが始まる前のジュークボックスから鳴る”I’m talking love”に合わせたダンスである。豊かな背中が官能的で、キャミソールの肩紐を、両方ともに二の腕に垂らして、股間の前で握った両手を交互に突き立てて、得意げな顔で男に煽情的に目をやる。そんな彼女のインサイドを侵略したいと男たちが欲望するのは、ある意味で当然である、そんな風に彼女は体を揺する。もちろん、欲望するのは自由だが、実際に侵略してはならない。それが劇中での裁判でも問題になる。本当は誘ったのではないか。誘ってないわけではないが、「やめて」と言った。。。

☆痛い映画best 53 (下の注を参照)

53 それでも夜はあける
52 ムカデ人間
51 Raw
50 ブラックスワン
49 ポケットいっぱいの涙
48 ブルワース
47 ミュンヘン
46 パルプフィクション
45 レイジングブル
44 ケープフィアー
43 ベンスティラー人生は最悪だ
42 ドライブ
41 フェイク
40 籠の中の乙女
39 イカとクジラ
38 プライベート・ライアン
37 ガンモ
36 タクシードライバー
35 天才マックスの世界
34 ワイルド・アット・ハート
33 シティーオブゴッド
32 悪魔のいけにえ
31 ブルーベルベット
30 ジュリアン
29 バグ
28 パルプフィクション
27 トレインスポッティング
26 バッド・ルーテナント
25 ジャンゴ繋がれざる者
24 脱出
23 鮮血の美学
22 ハピネス
21 フルメタルジャケット
20 KIDS
19 アンダルシアの犬
18 ピアニスト
17 リトル・チルドレン
16 『告発の行方』
15 マーターズ
14 オールドボーイ
13 ミザリー
12 127時間
11 セルビアン・フィルム
10 レクイェム・フォー・ドリーム
9 ソドムの市
8 アメリカン・ヒストリーX
7 ガーゴイル
6 ハンガー
5 アンチクライスト
4 べニーズ・ビデオ
3 屋敷女
2 ソドムの市
1 アレックス

いやー、疲れた。映画のタイトルを英語で書かれるとぜんぜん分からない。(^^) あっ、このリストは『告発の行方』の英語版wikiが挙げていたランキング。

2と9のパゾリーニとか、28と46のタランティーノとか、2回挙がっているところから分かるように、痛い映画というより、痛いシーンってことなんだと思う。12とか13は分かる。15も分かる。3は違うな。(^^) 映画観れてない。イメージ。概念的鑑賞。痛いんだろうなっていう先入観。

23も同じ。ウェス・クレイブンのデビュー作にして、偉大なスプラッターだが、「痛い」じゃないよね。23を入れるならハネケの『ファニーゲーム』のほうがずっと痛い。23は痛いじゃなくて、殺りまくる、だけの映画だね。純粋なスプラッターなんだよ。夫婦で復讐するでしょう。逆にもし痛みを覚えさせたいならば、復讐させない、つまり、『ファニーゲーム』に寄ることになる。こうやって局面を限定して沢山リストアップすると、映画をどんな風に鑑賞できているのか分かっちゃうな。『パッション』入れないのも意味分からんな。『愛の新世界』とか『セクレタリー』はどうしたんだ。全然分かってないのかな。(^^)

注: さんざん文句書いておいてなんだが、勘違いしてた。「痛い映画ベスト」ではなく、「目をそらしたくなる映画ベスト」”some of the most disturbing and hard-to-watch movie scenes in film history”だった。まあ、痛い映画ベストの方がランキング作る意味があると思うから勘違いのまま放置しておく。(^^)
https://www.complex.com/pop-culture/a/matt-barone/most-hard-to-watch-scenes-in-movie-history


☆主演女優賞

それでやっと『告発の行方』に戻るのだが、1の『アレックス』と同様に一方的にやられる。だからこそ、屈辱と痛み、が増幅する。『告発の行方』はギャング・レイプのシーンで、POVでカットバックする。ピンボール台に押さえつけられ、口を手で被せられているので息もできないだろう。服を剥がれて乳房は露わになる。押さえつけて体内に侵入する男たちの顔に向かってクローズアップでPOVに切り返す。広角レンズなので、周辺が歪になりフレーム中心の男たちの顔が突き出してくる。その目は何も見ていない。広角レンズの歪の効果なのかロンパっているようにすら見える。必死にdesperately、狂ったようにfrantically、男たちはただただ腰を振ってサラの内部の侵略を繰り返す。この男たちには何も聞こえていない。おそらくサラのことも見えていない。純粋な暴力。サラが裁判で、「私の中に」insideと何度も言っていたのが印象的だった。内側をやられるとどうにもならない。


ジョディ・フォスターがアカデミー主演女優賞というのは、当然である。冒頭、がらがらのダミ声で叫びにならない叫び声で走る。声からするとジョディ・フォスターって分からない。鬼気迫る演技でしょう。


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