泡沫

ロジャー&ミーの泡沫のレビュー・感想・評価

ロジャー&ミー(1989年製作の映画)
4.0
「明日へ」っていう映画みたいみたいと思いつつ身につまされすぎて手を出せてないんだけど、これは油断してしまった。レイオフとは言ってるけどリストラとどうちがうのか。GMや地域・果てはアメリカ経済の発展に大きく寄与してきたはずのフリントの工員たちは工場の海外移転に伴い容赦なく切り捨てられ家を追われる。失業対策として行われるのはきらびやかなパレードにハコモノ行政、まったく異なる職種の斡旋。増加する犯罪のため元工員を看守として採用するとか刑務所を新設したからと宿泊できるイベントを行うとかよくもまあこんな残酷なことを思いつくなというグロテスクさ。「生活者にとって最悪の町」と書かれたのが許せんと言って雑誌を燃やして溜飲を下げる愚かさはなかなか笑えない。
酷薄で無責任な言葉は本当に腹に据えかねるとはいえ、富裕層が金のために虚言を弄するのはまあ理屈には合っているよな。無償で大企業の擁護する庶民なんて意味不明なもんはとりあえず出てこない。アメリカにはあんまりいないのか。ラスト、綺麗事(正しい使い方)のスピーチでクリスマスを祝うロジャー・スミスと立ち退きを迫られる家族の様子が交互に映される。暴露でもなんでもない普段通りの姿だが、それを並べるだけできっちり作品の総括となっている。マイケル・ムーアという人はすぐれたドキュメンタリー監督でありながらひたすら実直で、皮肉と冷笑は別物だと教えてくれる。
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