Fitzcarraldo

3人のゴーストのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

3人のゴースト(1988年製作の映画)
3.8
Charles Dickensの“A Christmas Carol”(1843)を下敷きに、現代のニューヨークを舞台にしたRichard Donner監督作。

Mitch GlazerとMichael O'Donoghueの共同脚色。

撮影監督には"Taxi Driver "(1976) や"Raging Bull "(1980) を担当したMichael Chapman。

"Grand Prix"(1966)でアカデミー賞編集賞を受賞したFredric Steinkampと、その息子であるWilliam Steinkampが編集。

数々の作品を熟すDanny Elfmanが音楽。

経歴だけ見ても周りのスタッフの固め方が尋常じゃない。リチャード・ドナーの本気度が伺える。

ディケンズの『クリスマス・キャロル』を未読での鑑賞。


◯社長室

世界最大のネットワークを誇るテレビ局IBCの社長に史上最年少で就任したBill Murray演じるフランク・クロス。

ストリチナヤのウォッカを飲む。

「ストリチナヤ」という名称は、発祥地のモスクワに因んで“首都”の意味があるという。ロシアによるウクライナへの侵攻に対する直接的な反応として銘柄名を「ストリ」に変更すると製造するストリ・グループは発表。

ストリ・グループの創業者はロシア出身のユリ・シェフラーだが、プーチン政権に反対して2000年に亡命したという。先見の明が冴えわたっている。

同社のウォッカはロシア産と宣伝されていたが、現在はラトビア産。さらに、スロバキア産の原料のみを使用して、今後はロシアから調達した原料が使われないように徹底すると発表。

ここまであからさまな抗議を受けて、さて…ロシアはどう出るのか?

世界からの締め出しにどこまで耐えられるのか?

さらに世界はロシアに頼らずともエネルギーを確保することはできるか?

なんてことを、ストリチナヤ改めストリをがぶがぶ飲むフランクを見て思いを馳せる。

ストリチナヤをこんなに飲みまくる映画は他にないだろうな…

赤い缶の飲料と半々くらいの割合で混ぜているのだが…コーラではないあの赤い缶は何だ?そんなに濃い色してないんだよなぁ…どんな味してんのか気になる。

そして何ていうカクテルなんだ?それは?



1955年の自分の生家へ連れていかれるフランク。

過去のゴースト
「声は聞こえないし、姿も見えないよ。古い再放送を見てるのと同じさ」

この世界のルールはそういうことらしい。


◯生家

母はソファに座り雑誌?を読みながら煙草を吸っている。

テレビを見てる4歳のフランク。

父が帰宅。

父、タバコに火をつけるとフランクに近づく。


「フランク、プレゼントだ」

フランク
「汽車ぽっぽ?」


「子牛肉2キロだ」

フランク
「サンタに汽車ポッポ頼んだのに」


「それじゃ働いて買うんだな」


「まだ4つの子どもよ」


「てめえらは言い訳ばかりだ。"背中が痛い""脚が痛い""まだ4つ"人生そんな甘かねえぞ」

ソファに横になる父。

「てめえらは言い訳ばかり」

自分が言われている気になる。

「人生そんな甘かねえぞ」

これは嫌という程もう知っている。

「腰が痛い」「頭が痛い」と、私の母親はよく溜め息混じりにつぶやいていたが、あれも言い訳だったのか?

そんなことを言われても、子供の私はどうすることもできず、ただただじっと黙っていたのを思い出す。

4つの時のフランクと似ている。

なんか嫌なものを思い出した。


グーニーズでフラテリ一家のママを演じたAnne Ramseyがホームレスの役で出てる。やはり特徴ある顔してる。いい顔してるなぁ。


クリスのもとへ。

フランク
「なぜか過去のことが…俺はたくさんの決断をしてきたが、もし別の決断をしていたとしたら…わかるか?」

クリス
「後悔してるの?」

フランク
「ああ後悔してる」

クリス
「今からだってやり直せるわ。自分を変えるの。私もやってる」

フランク
「OK。いまからどこかへ行って、君と一緒に中華を食う」




◯地下の下水道?

現在のゴーストにトーストで殴られると、弟の家から地下へジャンプ。

フランク
「やりやがったな。根性のある女は好きだぜ。ここはどこだ?トランプタワー?ふー都会の暗部だな」

ふふふ笑ってしまう。
これはアドリブっぽいなぁ。


生放送のスタジオに乱入するフランク。
熱を帯びた演説を行う。

フランク
「1年に1度、善人になるクリスマスだ。笑顔にもなれる。もっと優しくもなれる。1年のうち数時間だけ理想の人間になれるんだ。これは奇跡だ。奇跡と言っていい。毎年イブに起こる。これを無駄にするなんて絶対に許されない。俺たちが奇跡を起こす。世間には奇跡と縁のない大勢の人たちがいる。寒さに震え、食い物もない。そんな人たちに声を掛け、毛布を与え、サンドイッチを差し出そう。そうだ!その心があれば奇跡を起こすことはできる。貧乏人だけじゃなく俺たち全員に奇跡が起こる!今夜、奇跡が起これば明日だって起きる!クリスマスは年に1度なんてウソっぱちだ!毎日クリスマスにできる!心から望めば実現できるんだ!生涯ずっと毎日がクリスマスだ!今の俺は信じてる!俺に奇跡が起こるのを!…なんていい気分だろう。こんないい気分は久しぶりだ。皆さん。メリークリスマス」

この演説は素晴らしい!!
ビル・マーレイの目にどんどんと涙が溜まっていき感情が爆発する。

これは今のコロナ禍、ロシアの侵略戦争、インフレによる物価高騰と…世界中の不安に対するポジティブなエールに聞こえてくる。実現不可能な夢のように思えるかもしれないが、すべての人類がこの奇跡を信じて望むことこそが、未来への希望である。

愛のある、夢のあるポジティブな言葉だと思う。

この力のあるメッセージは原作にもあるのかな?それなら俄然、原作も読んでみたいと思う。

これくらい雄弁で熱のこもった演説を日本の政治家や、日本のテレビ局の社長から聞きたいものだ…。

これをラストに持ってくるなら、素晴らしい映画と言わざるを得ないだろう。序盤は眠くなるが…

さらにこのメッセージに続く曲も歌詞も素晴らしい。

ただ…この大団円の少し前に、どさくさに紛れて、フランクがダンサーと熱いキスをしてるのだけは頂けない!

それやっちゃうと、ラストのクレアとのキスが誠実なものに見えない!


"PUT A LITTLE LOVE IN YOUR HEART"
by JACKIE DE SHANNON, RANDY MYERS & JIMMY HOLIDAY

Performed by THE CAST

歌詞

友達に手を差し伸べよう
心に愛を持って

ためらわないで手遅れになるから
心に愛を持って

そうすれば世界がちょっとよくなる
そうすれば世界が住みやすくなる
あなたにも私にも
みんなで信じればそうなるから


途中、ストリートミュージシャンが演奏してるシーンが一瞬映るのだが…ん?マイルス?と思ったけど、まさかな…とスルーしていたが、調べてみたらやっぱりMiles Davisだった。なぜ?こんなところに出てるの?

ストリートミュージシャンのメンバー
Miles Davis
Paul Shaffer
David Sanborn
Larry Carlton
Fitzcarraldo

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