暗く淀んだ海と、波打ち際に置き去りにされたピアノ。
構図の美しさに心を奪われる。
言葉の代わりであり、魂の一部であるピアノと共に生きるエイダ。
理解のない冷たい夫よりも、粗野だが、気持ちが通じ合う孤独な中年男と恋に落ちていく女。
薄暗い、粗末な部屋で、息を潜めて愛を交わすふたり。
ハーヴェイ・カイテルの筋肉質の肉体が生々しい。
そして、大人の愛憎の世界を垣間見た、多感な少女フローラ。
彼女の嫉妬と戸惑いの姿に、共感と苛立ちをも感じた。
生理的な部分を含め、女性監督ならではの繊細で濃密な演出が冴える。
マイケル・ナイマンのメランコリックな旋律が忘れられない。