義民伝兵衛と蝉時雨

全線~古きものと新しきもの~の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

4.3
凄かった。これぞエイゼンシュテイン・モンタージュ・マジックというような魔法のような映像連鎖。その天才的な感性がこれでもかというほどに発揮されている作品だった。圧巻の映像連鎖。驚きに次ぐ驚き。今尚人々の心を魅了し続けるその独創的な表現力にまたしても驚ろかされた。表象の部分だけでもここまで興奮させてくれるのはやはりエイゼンシュテイン監督という感じ。まじもんの天才だ。

その驚くべき表現力によって描かれているものはコミュニズムのプロパガンダ映画そのもの。しかしスターリン政権による最終的な国民への対応は本作に描写されているようなコミュニズムの理想的な精神とは矛盾した結果となった。この理想にはあらゆる綻びが生じて、最終的にソ連は官僚主義的な統治体制へと逆戻りし、革命以前のロシア帝国による専制政治と大差ないソ連共産党による一党独裁政治によって国民はまたしても圧制に苦しむこととなった...。しかしそれでも本作に描写されている理想的なコミュニズムの精神には学ぶべきところもある。結局どの社会主義国もこの理想を実現することは出来きずに理想は迷妄となってしまったとは言えども。

本作の目的は明らかに当時のソ連国民に集団農場(コルホーズ)の理想的な姿を見せることによってコルホーズと社会主義化を促進する為の国民扇動だが、他のエイゼンシュテイン作品同様にエイゼンシュテイン監督の天才的な表現力は途轍もなく素晴らしい。どのエイゼンシュテイン作品を観た後にも感じることだが、もし本当に描きたいテーマを自由に描けていたとしたらどのようなものを描いたのだろうか? 心底興味をそそってくれる映画監督だ。その天才的なセンスや感性がやはり大好きだ。