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墨東綺譚のlingmudayanのレビュー・感想・評価

墨東綺譚(1960年製作の映画)
4.0
お雪を演じる山本富士子が本当に健気でいじらしい。芥川比呂志が来ていることを靴で知り、嬉しそうに2階へと上がっていき、柔らかな蚊帳を広げてやるシーンはBGMも相まってお雪の喜びがよく表れていた。「もう帰ってもいいのよ」と敢えて冷たく突き放すシーンでさえ愛情が感じられるのだから素晴らしい。

一方でお雪に対抗心を燃やし、芥川比呂志の愛情を色仕掛けでとどめようとする新珠三千代の演技も良かった。この作品では玉の井は蚊帳、芥川比呂志の家では硬質なふすまが対照的に使われていた。

永井荷風の原作は読んだことがあるが、映画のように戦争を予感させる内容は無かったと思う。反戦的な描写は時折鬱陶しかったが、ラストのホラー的な売春婦たちの呼び込みと、彼女らが慰安婦として戦地に送られることになるという下りは、彼女らが幸せになることはないという全体的なテーマをよくまとめていた。
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