William Somerset Maugham著『世界の十大小説』の中で「あらゆる小説の中でもっとも偉大な作品」と評したレフ・トルストイの著書『戦争と平和』(1869)を原作にしたKing Vidor監督作。
共同脚色にBridget Boland、Robert Westerby、King Vidor、Mario Camerini、Ennio De Concini、Ivo Perilli、Elizabeth Hill(uncredited)、Gian Gaspare Napolitano(uncredited)、Irwin Shaw(uncredited)、Mario Soldati(uncredited)
さすがに原作が大長編だけあって、脚色するのが大変だったんだろうなぁと察する。
原作を読むだけでも大変なのに、それを映画にしようってんだから、切り貼りするだけの作業でも重労働だろう…想像するだけで気が遠くなる。
登場人物が559人と云われる原作から、Audrey Hepburn演じるロストフ伯爵家の娘ナターシャ・ロストフと、Henry Fonda演じるベズーホフ伯爵家のピエールと、Mel Ferrer演じるボルコンスキィ公爵家の長男でありピエールの親友でもあるアンドレイの3人を軸とした物語に脚色。
3人に的を絞ったことで、とっ散らかることやくスッキリ見やすくなったと思う。原作未読なので比べようがないのだけど…
アンドレイ
「何かやりたいことは?」
ピエール
「追求したいよ。何もかも…なぜ僕はバカなまねをするのか。幸福とは何か。悩むことに価値が?人はなぜ戦争に行く?神に祈るとき心の奥底では何を思うか?どんな気持ちで男女は愛を告げるか?考えるだけで忙しい…。僕のことは理解できない」
いまやSNSに忙しい現代人。
フォロワーやら投稿するのに忙しく、こんなことを考える余地がない。
ピエール
「君は恋をして結婚し、戦争になれば迷わず志願」
アンドレイ
「そんな人物ならいいがな…」
ピエール
「事実だろ」
アンドレイ
「誤解してる。志願の理由を?ナポレオンが憎いからか?オーストリアで戦うことに意義を感じてるからか?ロシアを強大な国にするためか?」
ピエール
「ではなぜだ?」
アンドレイ
「僕は美人で魅力的な女性と結婚した。それが苦痛だ…。結婚するな。少なくとも歳を取るまで待て。でないと雑事で身をすり減らし、気高さが失われる。そんな目で見るな。君の"英雄ナポレオン"も、若いうちに結婚していたら今でも大尉だ。細君を伴ってパーティーへ。バカげた交際に振り回される」
いまや戦争が身近な分、下手なことは言えないのだが、これはこれで当時の風俗を風刺している気がする。
これは現代でも置き換え可能な気がする。
ピエールの妻になるエレンを演じたAnita Ekbergが美しすぎる。ゴージャスでいて溢れ出る色気が画面から抜け出て香ってきそう。華がある。
アンドレイ
「この世でよくないことは2つだけ。後悔と病気だ」
なるほど。確かに後悔はネガティブで後ろ向きな感情にするし、病気も同じ。
魔女の一撃と云われているほど、激痛が走るギックリ腰を患った今の私は単純な日常生活が送れないことでのストレスが大きい。
それにしても始終ゴージャスな衣装と美術だこと。
舞踏会でティアラをつけたオードリーの美しいこと美しいこと…顔が小さすぎる。齋藤飛鳥もこのくらいか?
しかしピエールじゃなかったのね…アンドレイのことを好きになるのねナターシャは…敗戦地に置き去りにされて、脚を引き摺っていたアンドレイなのに舞踏会では完治してる。
この辺の時間経過は長編になると難しい。
パッとカットが切り替わった時に、何ヶ月も経ってる可能性もあるのだ。
アンドレイのナレーション
「次のターンで僕に微笑んだら、妻にしよう」
気持ち悪い!なんでお前の匙加減なんだよ。相手の気持ちは?
監督という立場を利用して女優を抱くのと何ら変わらない下劣さが伺える。
前髪作ったオードリー綺麗すぎる。
えぇ?Vittorio Gassman演じるアナトールに惹かれてんの?なんでよ?アンドレイは?アンドレイにも一目惚れだから、アナトールにもこれまた一目惚れ?
三時間半の長尺の映画のくせに、このへんの展開はやたらと早い。出会って4秒で合体してる場合か?!
この愛の変遷についていけません。
綺麗すぎるオードリーが逆に嫌味に感じてしまう。
ソーニャ(ロストフ伯爵家の居候)
「3回会ったきりの人と…」
ナターシャ
「今までは本当の愛を知らなかった。そういうものらしいわ。愛に突然目覚めたの。会った途端"この人だ"と。愛おしくて、たまらない。彼の虜よ。私は言いなり。仕方がないの」
真剣に言えば言うほど、言い訳にしか聞こえないし、彼女に全く共感できない。
乾杯して飲み干すと、後方にグラスを投げ棄てるのはなんなの?どこの文化?ロシア?アメリカ?野蛮極まりない。粗野で単細胞。嫌い。
レピッシュのMAGUMI氏に飲み屋で一度グラスを投げられたことがあり、そこで大モメしたことを思い出す。
戦争と平和という割には、富の象徴たる貴族たちのどうでもいい惚れた腫れたの繰り返し。
金持ちの恋愛なんて全く興味ないし、高みの見物のような貴族たちより、戦争に巻き込まれた市井の人たちを描いて欲しかった。
ナレーション
1812年6月12日
ナポレオンは20万の大軍を率いて、ネマン川を渡りロシアへ。この侵略に抵抗すべくロシアの農民は、畑を焼いて彼らをむかえた。一面の焼け野原に。
今と逆やん。
ウクライナを焼け野原にしているロシア。
現状から鑑みると、この映画の中でさえロシアに肩入れすることは難しい…。
ロシア側のトップ会談
男
「略奪と放火。敵が近づくと農民は家財や食料をもって逃走。運べぬ家畜は殺処分。歯止めをかけないと国土は荒れ果てます。焦土と化します」
逆やん。
司令官
「諸君、軍と皇帝と国民が最も望むものを私は与える。つまり、フランス兵を一人残らず追い払うことだ!それを実現してみせる。時期がきたら」
だから逆やん。
ロシアにもこんな時代があったのか…
それはそれで歴史をキチンと学ばなくてはならんな。
なにを着ても似合うなぁ…オードリーよ。
ピエール、丘の上から見下ろす。
広大な平野に、軍が動いている。
このショットだけで、ものすごい金と人数を掛けている。
画面奥の遠くにまで歩兵が動いているのが分かる。
さらにカメラが横にパンすると、こちらでも戦いがまさに始まろうとしている。
さらにパンするとものすごい数の人が隊列を組んでいる。
このショットだけで、マジで何人使ってるんだ?すげぇ…
騎兵隊の数も尋常じゃない。
何頭の馬使ってるんだ…
パンフレットによると…
「合戦シーンに1万8000人のイタリア軍の兵士を使い、忠実に再現したナポレオン時代のロシア兵やフランス兵の軍服を着せた。この軍服のボタンに10万個以上を使い、約7000着の衣装、約4500丁の銃、200門の大砲が作られた」
これだけで幾らかかるのよ?
ものすごい贅沢なシークエンス。
このシーンだけでも見る価値ある。
このシーンはスクリーンで見たかった。
モスクワ。
フランス軍が近づく…
逃げる市民。
家財道具を荷車に積めるだけ積んで…
モブシーンがすごいな。
圧倒的な物量と人の波。
この説得力。
まさにウクライナ。
このフランス軍と同じことを、今度はロシアがウクライナに対して行うとは…
アンドレイ、ナターシャを憎んでやん。
許さないと言ってたのに…
会った瞬間、愛してる!えぇー!?
その、気持ちの変遷、わからないんだけど。言葉で説明しちゃダメでしょ…
えぇええ?!
アンドレイの妹マリヤと、ナターシャの兄ニコライがくっついたの?なんで?えぇどういうこと?ソーニャはどうしたん?婚約者ちゃうの?そんな自由にしていいの?
ソーニャも「自由にして…」と…聞き分けよすぎるし…
『戦争と平和』というより『結婚と姦淫』
ナポレオンはモスクワまで陥落させた?
なぜナポレオンはモスクワを退却するの?陥落させたのに?その報告を、ロシア側の総司令官が神の前に跪き、感謝の意を述べるのは違うのでは?結局、何もせず、退却し続けてと神に頼むことしかしてないやん。
フランス軍は退却するのに捕虜連れていくの?邪魔じゃね?捕虜いたら?退却に時間もかかるだろ?退却するのにそんな余裕ないだろ?
また物凄い人の列を使って、画面に収めてる!しかも雪の中を…日本軍がやったパターン死の行進の冬版。
フランス軍が最後の川を渡るところなんて、ダンケルクやん…。とにかく圧倒的な人の数。
ダンケルクは段ボールを使って水増ししていたというが、やはり本物の人間が演じる迫力は素晴らしい。
我が家に戻ってくる、ナターシャ達。
ソーニャが普通に一緒にいるけど…ソーニャはどうなったのさ?婚約者だと思ってたからフラれたのに一緒にいるのは不思議に思ってたんだけど…原作ではニコライの又従兄妹でロストフ伯爵家の居候らしい。
これは映画だけ見てても分からない設定。
最後にやっとこさ、ピエール登場。
結局、回り回ってどえらい遠回りしたけど、ナターシャとピエールがくっつくというオチ。
ん〜。
ラストの字幕
苦難のときも人生を愛せ
人生がすべてだから
"人生を愛す"とは神を愛することである
トルストイ『戦争と平和』より
ん〜そういうことじゃない気がする。
結局、全てを神に結びつけて考えるのは、どうなんだろう?それが宗教ということなのか?信心深くない私には理解し難い。
しかし原作では、この後も続くようだ…
原作を読めばトルストイの考えは理解できるのか?