映画の味方あっつマン

霧の中の風景の映画の味方あっつマンのレビュー・感想・評価

霧の中の風景(1988年製作の映画)
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ドイツにいると聞かされた見知らぬ父を求めて、12才の少女と5才の弟が夜行列車に飛び乗った。死んだ馬が引きずられていった雪の夜、オートバイの青年、疲れきった旅芸人たち…。美しい詩のような風景の中を進むふたりが旅の果てに見るものは——。



幼い姉弟が父親がいるドイツを目指すロードムービーだが、2人は私生児で、「ドイツに父親がいる」というのは母親がついた嘘。初めから、目的地は無い。伯父から事実を聞いても、2人は旅を続ける。

2人は旅の中で、たくさんの大人たちと出会っていく。無防備な子供が大人の世界に足を踏み入れるのは、痛みが伴うものだ。特に姉は、旅の中で、普通は何年もかけて経験するような痛みを、短期間で経験する。国境にさしかかる頃には、ずいぶんと大人びた顔つきになっていたのが、印象深い。

この映画を観ると「可愛い子には旅をさせろ」とは思えなくなる。この旅はどう考えても、トラウマしか残さないだろう。子供の成長には、適正な時間をかけた方が良さそうだ。

旅の果てにたどり着く、最後のシーンは、一見、救いがあるようにも見えるが、一切現実味がなく夢だったのかもしれない。

全編を通してセリフが少なく、とても行間の広い作品だ。エンタメ作品は答えをしっかり見せるが、アート作品は疑問を投げかけてくる。この作品は後者であり、観る者はテオ・アンゲロプロス監督がつくった霧の中に迷い込むような感覚におちいる。

印象的な黄色の服を着た人たちや、人差し指が欠けている大きな手のメッセージは何だったのかを考えながらみるのは、面白いと思う。