デニロ

二十一歳の父のデニロのレビュー・感想・評価

二十一歳の父(1964年製作の映画)
4.0
1964年製作公開。原作曽野綾子。脚本監督中村登。

大学の教授たちが女子学生にしたい放題。講義中、キレイなあんよに唆られてスカートを捲り上げ、君はいいスカートを穿いている。別の教授は、髪のリボンを解いてしげしげと見つめ、飲みに行こう、と千駄ヶ谷のホテルに誘ったり。鰐淵晴子の際立った容姿が欲望を掻き立てる、というような話ではない。

あのめくらの女。

二十一歳の父と倍賞千恵子と赤ちゃんのラブコメかと思っていたら、とんでもハップン。倍賞千恵子がそう呼ばれていた。この台詞、本作で10回は耳にした。二十一歳の父は山本圭。広告会社の重役山形勲を父に持ち、兄は東大から日銀、というエリートに囲まれる大学生。そんな家に耐えられずに一人暮らしを選択。パチンコ屋の店員、仕出しの役者のアルバイトで生計を立てる。

ある日、山形勲が山本圭のアパートを訪ねるとそこに倍賞千恵子がいる。/あなたは誰ですか?/山本圭の妻です。/彼女の仕種から目が見えないことが分かる。家に帰って同居の長男夫婦高橋幸治、岩崎加根子に報告すると、そのめくらの女は云々、という台詞が飛び交う。

余命幾許もない母親が生きている間、という条件で妻と共に実家に戻る山本圭。一家は冷静に彼らを迎え入れる。山形勲が狼狽えもせず堂々と対処しているので観ているわたしにいやな気分は起きない。高橋幸治も、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや云々と上機嫌で講釈を垂れる。その家で新たな命の誕生と一つの死が訪れる。母親の葬儀を背に、約束通り山本圭は高橋幸治に日銀の人が弔問に来る前に家を出ると告げる。

山形勲は、山本圭にパチンコ屋の一軒も持たせて生計を立てさせたい、と意味不明の提案をして長男夫婦に同意を求めるのだが、岩崎加根子は猛反発。あんな勝手なことばかりしている者にそんなことをする必要はない。わたしたちのこともかんがえてください。意見を押し切りパチンコ屋の下見までするのだが、どうもそう簡単には買い取れぬとわかったようで就職を勧める。

二十一歳の父が活躍するのは子どもが生まれてから。就職面接の日、赤ちゃんが発熱する。倍賞千恵子も寝込んだとかで山本圭は役者仲間の友人勝呂誉に赤ちゃんを託そうとする。笑いのつもりなんだろうか。熱のある赤ちゃんを籠に入れて連れまわし、面接先のテレビ局に向かい勝呂誉に預けようとするのだが泣き止まずおろおろしているところを、バッタリと山形勲に会う。お前、面接は?何で赤ちゃんがいるんだ?熱があるじゃないか?馬鹿者!!わたしも本当にそう思う。

倍賞千恵子と赤ちゃんが横断歩道で車に跳ねられて死ぬという事故報告が電話でやり取りされる。山本圭は、お前の人生はまだまだだ、気を落とさず進めなどと父兄に言われるのだが。ラスト。自死した山本圭の無念を自分のこととしてかんがえることができたのは勝呂誉だった。

『男はつらいよ』の倍賞千恵子を好きになってしまった高校生は、映画雑誌のテレビ欄を見ながら、彼女の出演作のあれも観たいこれも観たいと果てしない欲望に悶絶しておりました。その時に本作が深夜放送欄に載っかっていて観ようと固くこころに誓ったんですが。ぼんくらな高校生が観たところでよく理解できなかったかもしれない。

かれこれ数十年。ようやく念願が叶う。でも、テレビ欄では勝呂誉がトップだったので今の今まで彼が二十一歳の父なのかと思っていたのでした。

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