てづか

その男、凶暴につきのてづかのレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
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ファーストカットで浮浪者が映し出された瞬間の不穏さと暴力の「予感」。そして、その「予感」通りに投げ込まれてくるサッカーボール。
予感はあっても突発的に暴力が放り込まれる感覚があって、そこらのホラー映画よりも余程ドキッとさせられる。

犯人を追いかける場面でも、普通に道路で子供が野球をしてたり、おばちゃんが布団を干して叩いてたり、そしてその日常のものが凶器に変わる瞬間もちゃんとあってそれがすごい良いなあと思った。
そこからの犯人2回轢くとこまでの流れとかが本当に面白くて笑ってしまった。
その後に「逮捕するのに車で2回も轢くことがあるかね」とかぶつくさ言いながら出てくる佐野史郎も面白かった。佐野史郎ってこういう役をやったら天下一品だよなぁ。


印象に残ったシーンは沢山ある。
歩道橋を歩いてくるたけしさんの格好よさ。
あまりにも淡白に差し込まれるゆえに余計ショッキングな岩城の首吊り死体(発見者が何も言葉を発せないというところも好きだった)

それと、妹の存在感。
妹といるときに流れる時間の優しさ穏やかさ。
それがあるから後半の展開が辛くてしょうがない。

はじめのシーンでなんで少年たちをその場で逮捕しなかったかというところにも主人公がどんな人なのかあらわれていると思う。
権力を行使して逃がすくらいなら、そこから外れても的確に恐怖を与えて確実に捕らえる方を選ぶ人。

後輩にお金借りたり子供撃ったりしたりするから一見社会的な枠組みみたいなものからは外れているんだけど、本当の心は妹を思って夕方になるまで一緒に海を眺めてくれたり、殺された岩城を思って怒ったりする心がある。岩城の家族にだって、余計なことは言わない。
そういう人だからこそ我慢ならんものがあって、そういう人だからこそ生きていかれないんだ。

主人公は「どうして警官になったんですか」の問いに「友人の紹介」と答えたけど、本当はもっと夢を持ってこの職についたんじゃないのかなとも想像してしまう。でもきっとどこかの時点で、それではどうにもできない悪があると知ってしまった。だからあの人の中ではもう、ああいう風にするしかなかったのかなって。まぁ勝手な想像ですけど。その勝手な想像をさせてくれる余白というかそういうのがあるところが良いなあとは思う。

それと対峙していく清弘もそういう男で、誰かに従うような人間でもなく性的にもマイノリティで、きっと生き方としては違くてもどこかで主人公と同じようなものがあったのかなと思う。
だから殺しあわなきゃいけなかったしその結果死ぬ。

きっと主人公も、最後アイツに殺されなくても死んでただろうな。

そう思うとなんともやりきれない。

でもこういうの好き。
てづか

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