めしいらず

その男、凶暴につきのめしいらずのレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
3.5
処女作にはその作家の全てがあるとは昔からよく言われてきたけれど、本作もまさにそうだった。北野映画のモチーフなり要素なりが既に揃っているような所感。サティのグノシェンヌをいなたく編曲したような絶妙な音楽をバックに、ヤクザと何ら変わらない暴力刑事がまるで死に急いでいるようにヤクザ相手にやりたい放題を繰り広げる。観ている側も痛みを覚えるような生々しい暴力描写。内なる暴力衝動。距離感や時間感覚が眩惑されるような長回しロングショットによる移動シーンの多用。台詞に依らない静かな演出。刹那的な主人公像。希死念慮を持った人間にはもう恐れるものがない。彼の唯一の生きる理由だった妹への思いが伝わるクライマックスの悲哀が圧倒的。こと90年代の北野作品に特有の濃い死の気配を作者自身の投影と見るのがあながち穿ち過ぎとは言えないようなヒリついた風情を当時の北野はまとっていたと思う。
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