真魚八重子

乳房よ永遠なれの真魚八重子のレビュー・感想・評価

乳房よ永遠なれ(1955年製作の映画)
5.0
監督田中絹代、脚本田中澄江のコンビによる、女性映画の傑作。中城ふみ子役の月岡夢路の、感情的でエキセントリックな芝居も素晴らしい。

北海道。女を作って隠さない、ものすごく人相の悪い夫の元から実家へ帰った中城ふみ子。気晴らしに幼馴染の杉葉子に、夫の堀卓(森雅之)の歌会に誘われた彼女の短歌は、賛否両論を招く。しかし堀は苦しみのこもった歌を高く評価して、東京の短歌雑誌にふみ子の歌を応募する。

夫と正式に別れて、息子は夫側、娘だけを引き取ったふみ子は、息子が恋しく哀しみに暮れた。さらに心の支えだった堀卓も亡くなってしまう。また、生活を立て直そうとしたふみ子自身も癌の病魔に侵される。

入院中のふみ子を、東京の新聞社から大月(葉山良二)が訪ねてくるが、「わたしがいつ死ぬか、確認しにきた。早く死んで記事にできればいいと思ってる」と悪態をついて会おうとしない。しかし熱心な大月の訪問によって、次第に心を開いていくふみ子。

乳癌の手術後、杉葉子を訪ねてお風呂を勧められる。風呂に入りながら、薪を焚く杉葉子に「堀さんが入っていたお風呂に入りたかったの。わたし堀さん好きだった」とうっとりした、挑発的とも思える表情で言うのが、このふみ子という女性の特徴的な気性だ。聞き流した杉葉子が、風呂の窓から中を覗いてしまい、手術跡を見て思わず悲鳴をあげてしまう流れも、映画として完璧。

寝泊まりして看病する大月に、体の関係を求めるのも、死を前にして肉体を感じたいのがとてもわかる。病魔に体を操られるのではなく、自分の意志で、快楽で体を操る感覚を嚙みしめたいと思うのだろう。

ラスト、ふみ子が遺児二人に残した短歌の重さにゾッとした。最後まで激しかった気性に、思わず固まってしまった。
真魚八重子

真魚八重子