ベティー

バビロンの陽光のベティーのレビュー・感想・評価

バビロンの陽光(2010年製作の映画)
3.8
2011年のイラク映画。原題はバビロンの息子、またはバビロンの子孫か。
主人公は小中学生くらいの男の子。
祖母と2人で、戦争から戻らない父を探しにナシリアーという土地にある刑務所を目指し900キロもの旅をする話。

戦争というのがイラク戦争のことで、2003年フセイン政権崩壊直後なので10数年前。

オープニングからもう本当になにもない景色がすごい。なにもないって、見る分には素晴らしいなあと思うくらい荒涼とした風景は見もの。

重そうな雰囲気の印象だが、意外にも旅の途中で出会う人々との話が可愛らしく、みやすい作り。中半までは。

タイトルのバビロンは昔イラクで栄えた王朝の名前で、都市名でもあるんだが、グーグルマップで検索してみたら、なんもでない、と思ったら本当になにもないんですよ・・、検索終わってたわ…
イラクという名前自体、アラビア語で、「豊かな過去を持つ国」らしく、世界最古の文明といわれるメソポタミア文明が栄えた地域で、紀元前3000年くらいというからそれはすごい。。キリスト誕生付近〜スマホいじったりドローンで爆弾投下ミサイル発射する現在に至るまでの時間2000年くらい、そのさらに3000年前とは...とんでもなく歴史あるなイラク。
そもそもノアの箱船やバベルの塔など旧約聖書の話の元になっている地域らしく、それだけにおばあさんが語るイサクの犠牲の話は貫禄も重みも十分だなあ。バビロンの空中庭園の話やイシュタル門などなど歴史的遺跡も出てきてなかなか観光的気分でも楽しめる。

が、この映画は基本的に湾岸戦争〜イラク戦争やら経済制裁やらで荒廃したイラク、大量の行方不明者、大量虐殺など悲惨な現実を伝える話。
過去40年間の行方不明者100万人以上という話なので、この主人公の少年はイラクでは決して特別な存在でなく。むしろありふれた話だからこそ映画化されることに意味があるはなしなのかも。
普通に面白い映画でもあるし、みる価値のある話。みることでちょっとだけイラクの人々や中東や戦争をみじかに感じるようになるし、結局世論みたいな漠然としたものはそんなちょっとした一般人の意識の変化の積み重ねから変わっていくものじゃないかという気もするし。行動を起こすことが必ずしも大事ではなく、こういう映画をたまにみるだけでもいいんじゃないかと思う。
ベティー

ベティー