KengoTerazono

ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実のKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

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ニュースなどでは、当たり前のようにウクライナを善として、ロシアを悪として報道されている。私は断じてプーチンを支持しないし、ロシアのやっていることは間違っていると思っている。思っているのだが、この映画を観ると、何に依って物事を見ればいいのかがわからなくなる。戦争は個を無化する行為だ。一人一人の人格ではなく、その人の国籍のみが敵か味方かの指標となる。だから「個」の視点が非常に大切となる。戦争で殺された人にも人生があり、殺した人間と同じような人生を送っていた。個に思いを馳せることは重要だ。だが同時に、個は戦争の責任を有耶無耶にもしてしまう。日本が描く太平洋戦争や、アメリカが描くベトナム戦争は、時代に翻弄された兵士ないし一般人の悲劇として戦争を語りがちである。だが、日本がアジアの地域を侵略したという事実やアメリカがベトナムの地を荒廃させたという事実は変わらない。この事実はしばしば抜け落ちる。個にフォーカスを当てると、自分達が感傷に浸りやすい、受け入れやすい形にコンテクストを変換することができる。それは自分達の責任から目を背けているだけで、真摯的とは言えない。だがこの作品は違う。徹底的に個にフォーカスしていると同時に、現実から決して目を背けない。だから観ている人々の倫理観や価値観が根底からひっくり返るような作品になったのだと思う。

私は何を拠り所にして過去に起こった悲劇や、今起こっている悲劇について考えれば良いのか。客観的に物事を見極めるとはどういうことなのか。私にはわからない。唯一、自分の拠り所にすることのできるものがあるとすれば、やはり個なのではないだろうか。徹底的にその人に寄り添い、その人の話を聞く。案外顔を見るだけで、本当の気持ちを述べているのか、自分や相手を騙そうとして発言しているのかはわかる。同じ悲しみに暮れている人でも、キャメラを意識して悲しみを演じている人と、撮られているとも気づかずに悲しんでいる人との違いはなんとなくわかる。個に依って物事を受け止める時、大事なのはその人の嘘を見極めることではない。なぜその人が嘘をついているのかだと思う。なぜ、ベトナム戦争を主導した政治家たちは自分を騙すかのように、出鱈目を並べるのか。なぜキャメラを向けられたベトナム人の中には悲しみを誇張する人がいるのか。その根底に人の弱さや、激しい怒りがあるのではないかと思った。
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