レインウォッチャー

プリティ・ブライドのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

プリティ・ブライド(1999年製作の映画)
4.0
「俺以外誰が褒めるんだ」系映画。

有権者の皆様にまずお伝えするべきは、かの『プリティ・ウーマン(以下PW)』からは完全独立した一本ということであります。勿論、このレジェンド主演2人+監督も同じということで、目配せはたっぷりなわけだけれど。

邦題こそがっつりとあやかってるものの、原題は『Runaway Bride(=逃げる花嫁)』。
タイトルの通り、何人もの男を結婚式の現場に置き去りにして逃げ出してきたという厄介なクセのある女・マギー(J・ロバーツ)と、そんな彼女を取材しに訪れる皮肉屋のコラムニスト・アイク(R・ギア)。初めは反目し合っていた二人だけれど、お互いを知り合ううちにやがて…?というラブ THE コメ。ベタっちゃあベタなんだけれど、『PW』以上にブラッシュアップされた丁寧な一本でもあるのだ。

主演2人の魅力は『PW』の頃から10年経とうとも色褪せず、それどころか今作の方が若々しくさえ見えるときもある。『PW』よりも等身大に近いキャラクターとなっているからかもしれない。

テーマとしては『PW』から通じる部分があり、「本当の自分を知った時、他者を愛することもできるようになる」って感じだろうか。
そして、本当の自分の像とは往々にして自分だけでは見えず、時には他者からの思わぬ助けが有効になったりする。

マギーは異性との距離感を間違えがちの、要するに天然サークルクラッシャー気質。そのままだとただの嫌な女に見えかねないところ、J・ロバーツのスターオーラで捻じ伏せる。
彼女がウェディングドレスの魅力を語るときや、アイクとの対話で心を動かされたとき、その瞳には星が滑り込む。全身から発散されるピュアな輝きが、色々拗らせて困ったちゃんな人物ではあっても、決して悪意ではなく悩める《ガール》であることを伝えてくれる。

それはアイクも同じで、女性に対して攻撃的なコラムばかり書く彼にも裏返しの弱さがある。2人はある意味で似たもの同士(※1)であり、それゆえに反発しながら、お互いの傷や後悔に気づき、あるいは気づかせ、フォローするようになっていく。こういった2人の体温ある人間としての魅力は『PW』より深掘りされていて、とても好感がもてる部分だ。

アイクが周囲から逃げ癖をネタにされるマギーを思わず庇ったり、彼女にまっすぐ「本当に君が望んでいることは…」と語り聞かせるとき、どちらの気持ちにも入り込んで涙が出てしまった。あのとき、わたしもこんなことを言って欲しかったし、言ってあげられたらよかったな…とか。

自分の好きな卵料理すら、その時々の男に合わせてばっかりだったマギー。彼女がついにその答えを知ったとき、すこし運命とか愛なんて言葉のパワーを信じてみたくなると思う。

今となっては、有色人種ほぼゼロのキャスト陣とか、「結婚がゴール」みたいな考え方自体が古臭いと片づけられがちかもしれない。しかし、そんな賢ぶったロジックの批判よりもずっと前に、大切にすべきエモーションと、話をじっくり聴くべき誰かの顔を思い出させてくれる作品のはずだ。

さて、あなたの好きな卵料理はなに?そして、あの子が好きなのは?

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挿入曲のチョイスもグッドである。

開幕、馬で逃げるマギーのバックでかかる、U2の名曲『I Still Haven't Found What I'm Looking For(=探しているものが見つけられてない)』。

いったん距離の開いた2人の各々の風景を彩るのは、「ぼくのブルー(青)な瞳をブルー(憂い)にしたのは君」と歌うエリック・クラプトンの甘メランコリックな『Blue Eyes Blue』。

そしてEDはコレしかない、Dixie Chicks(現:The Chicks)による『You Can't Hurry Love(恋はあせらず)』のカヴァー。

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あと、マギーの元彼ーズにもそれぞれマッチする誰かが…みたいなED、好き。

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※1:冒頭、アイクがマギーについて書いたコタツ記事に対して抗議文を送ってくるマギー。その文体はウィットに富んでいて、この時点で「あれ?こいつら相性良いんじゃね?」って予言されてんだね。