ぼのご

マッチ工場の少女のぼのごのネタバレレビュー・内容・結末

マッチ工場の少女(1990年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

最小限に抑えられている台詞や動作。限られているからこそ、表情やその時々の気持ちをあらわす歌の歌詞が印象に残った。

岨手由貴子監督と脚本家の大江崇允さんが講師としてトークショーに来ていて、お二人の考察を聴くのも面白かった。岨手監督のお話だと映画が始まってから最初の台詞まで13分あるらしい。それで僕の記憶だとたしか主人公の女の子の最初の台詞が「ありがとう」で、一番はじめの台詞が感謝の言葉なのがなんか嬉しい気持ちになった。純粋な主人公の印象にもぴったり。

マッチ工場で働いて母親と義理の父みたいな人を養って、恋もしたいのに上手く出来ず我慢我慢の連続の少女。本を読んでいる時だけ少し表情が柔らかかった。
やっと恋愛相手が見つかったと思ったら遊び人で、妊娠が発覚した時の不安感は相当なもの。それでも少女は強くて、相手に誠実な長文の手紙を送って、その結果が一行だけ書かれた返事の無情感。あれは打ちひしがれるなぁ……そこから始まる、これまで自分を押さえ付けてきた奴らに対する毒による報復っぷりは、正に文字通りの毒をもって毒を制すでちょっと爽快感あったし、嫌な人たちを全滅させたい心境はけっこう共感するところがあった。バーでナンパしてきただけで殺された人は完全にとばっちりで、可哀想なんだけど笑っちゃった…笑

一仕事終えて植物園で読書にふける少女。この場面は色々な捉え方があると思うけど、心を殺され続けていた少女が相手を殺して、ようやく本来の彼女に戻れたのかなって僕は思った。
自分の心が誰かによって殺されている状況下で、実際に相手を殺すまではいかずとも逃げるなり立ち向かうなりしないと、ドンドン心が死んでいく。原因をなんとかしないと元の自分には戻れない。まあそれでも完全に元通りとはいかなくて、植物園の花が最後枯れていたのはそういうことなのかなって思った。
とか考えると、この映画の話ってなんかメタファーな気がしてくる。工場での仕事風景は機械の歯車の一部みたいだし。だから警察に連行される最後は、歯車を強要される人生からの脱出を感じさせて、悲壮感はあまりなかった。決して明るい結末ではないんだけど。
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