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訣別の街の一人旅のレビュー・感想・評価

訣別の街(1996年製作の映画)
3.0
ハロルド・ベッカー監督作。

麻薬密売の絡んだ警官射殺事件を調査する市長補佐官・カルフーンの姿を通じて、ニューヨークの市政に蔓延る政治家の腐敗を暴いた社会派サスペンス。

社会派は好きなジャンルだが、本作は見どころが随分少ない。テーマは“政治の腐敗”という社会派映画の典型的なものであり、大体の展開は鑑賞前に想像できてしまう。そうなると演出で魅せる必要があるが、監督の力量云々よりもアル・パチーノ頼みの面が大きい。

ニューヨーク市長・パパスを演じたアル・パチーノの演技は流石で、特に少年の葬儀で遺族ら列席者たちの面前で演説風味の弔辞を披露する姿は真に迫る。市長に対して懐疑的だった人々が市長の力強い言葉に次第に突き動かされ、やがて市長と一体化していく様は圧巻だ。アル・パチーノの俳優としての実力を見せつけられた場面だが、それ以外のシーンで印象に残る演技は特になかった。
また、市長の右腕の補佐官を演じたジョン・キューザックは正義感が人一倍強く、上からの許可を得ずに独断で行動するタイプだが、相変わらずの眠気顔なので若者らしい熱意やフレッシュさをいまいち感じられない。
そして、紅一点のブリジット・フォンダは凛としていて勝ち気な弁護士を好演。射殺事件の遺族を守るため、補佐官・カルフーンに対し積極的に噛みついていく。

政治の腐敗というテーマ以外に、市長と補佐官の関係の顛末も物語の軸のひとつになっている。驚異的な演説力で市民から絶大な支持を集める市長と、彼に心から忠誠を誓う補佐官。市長のスケジュールを管理し、適切なアドバイスを送り、時にはプライベートで一緒に演劇を鑑賞する仲。そうした二人だけの絶対的な関係が、一つの事件をきっかけに崩れていく。判事・マフィア・政治家の癒着、次々死んでいく証人、そして、完璧に見えた市長に隠された秘密...。事件調査の過程で市政の腐敗の実態が明らかになっていく。
ただ、終始ありきたりで地味な展開が続くため面白味や盛り上がりに欠けるのは否めない。それでも、政治の腐敗に市長・補佐官の私的関係を絡めた物語は、社会派であるとともに人間ドラマでもある。
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