ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマン。
レジェンド級の2人の共演で面白くない筈はないのに、心底楽しめないのは、テーマがあまりにブラックで、これを笑いにするには不謹慎過ぎるからだろうなぁ。
大統領選挙中、現職大統領がセックス・スキャンダルを起こす。スキャンダルを国民の目から逸らす為に召喚されたのは、揉み消し屋のコンラッド・ブリーン(ロバート・デ・ニーロ)。彼が画策したのは、アルバニアとの架空の戦争。在りもしない戦争をでっち上げる為にコンラッドはハリウッドの敏腕プロデューサー、スタンリー・モッツ(ダスティン・ホフマン)に協力を依頼する—— 。
いやいや、これは笑えない。
マスコミを通じて、全く無関係の国、アルバニアの非道さを世に広め、ハリウッド仕込みのスタンリーは、合成技術を駆使して、アルバニアの少女が戦火で逃げ惑う映像を作り上げてしまう。
因みに、この少女役にキルスティン・ダンスト。
別にアメリカ国民じゃないけど、これ、アメリカ国民の目線で観れば、全然面白くないし、寧ろ許されない事だもんね。
アルバニアもお気の毒…。
ちょっとブラックが過ぎるかな。
黒過ぎる…。
コンラッドとスタンリーは、悲劇のヒロイン、愛国心を盛り上げる歌、起きてもいない戦争における英雄と、虚像を作り上げ、アメリカ国民を手玉にとって目眩し。
その過程は確かに面白いけど、心情的には盛り上がれない。
愛国心溢れる世界のリーダー、アメリカ合衆国の作り方(レシピ)をブラックユーモアで綴る。
やがて、自分の功績を世に知らしめたいという自己顕示欲に溺れたスタンリーが辿る末路も切ないし。
初対面の人間とは、野球と政治と宗教の話題を振るなという理由がここにある。
これ、コメディじゃなく、社会派作品として、シリアスに撮り上げた方が良かったかも。
大統領の側近役として、アン・ヘッシュ。
作られた架空の英雄役として、ウディ・ハレルソン。
脇を固めるキャストも良いだけに、このノリにノレなかったのが悔やまれる。
でも、デ・ニーロとダスティン・ホフマンがひたすら仲良さそうなのが、唯一の救い。
原題の"Wag the dog"は、なぜ犬は尻尾を振るのか?それは尻尾より犬が賢いから。尻尾のほうが賢けりゃ尻尾が犬を振るという意味。本来国民の方が犬で、大統領は尻尾の筈が、大統領が国民を振り回している、ないし、大統領すら、揉み消し屋に振り回されているという皮肉によるもの。
この皮肉を笑いに昇華するのは、なかなか難しい。