クシーくん

南極日誌のクシーくんのレビュー・感想・評価

南極日誌(2005年製作の映画)
3.5
仲間割れを起こす作品と聞いていたし、最初はビデオカメラとか回してるのでもしかしてブレア・ウィッチ・プロジェクト的な話?あるいは大雪原のホラーと来れば遊星からの物体X?と勘ぐったが全然そんな事はなくて純然たるサイコホラー映画。

狂った人間を極地探検のリーダーにしてしまうと大変な事になる。南極の到達不能点という異常な状況下を探索する過程の中で、栄養を取るのみの単調な食事、人が寝てる時にイラつく音楽を流す隊員、昼も夜もない異様な空、そして何より無限に続くかとも思える果てしない雪原と寒さ。足元にはいつ巨大なクレバスに出くわすとも限らない。その過酷な環境でただ同じ光景を眺めつつ毎日歩き続ける。人間が徐々にストレスを貯めていくには十分過ぎる描写が丁寧に描かれている。しかし隊長はほとんど最初から狂気に蝕まれていたように思う。メンタルチェックさせてから探検に向かわせた方が良かったんじゃねえかな。

赤い閃光弾を放った後、暗闇の中から近づいてくるソン・ガンホがめちゃくちゃ怖い。作中のユ・ジテ本人の様なゾワリとした気持ちが胸を襲う。とにかく本作は全編通してソン・ガンホの狂気の演技が物凄い。無線の部品を歯で噛み砕いたり、いきなりメガネをワシ掴みにして潰すというどう考えても異常な行動に出ているのだが、隊員が全員限界状態にある中、一番屈強でありかつ、ELT(救急無線機)も持っている為誰も逆らえない。ある意味ミザリーが南極探検の隊長をやっているようなもんだ。隊員達を毎回説得する理屈が、一見筋が通っているようで完全に意味不明過ぎるのもゾワゾワさせられた。でもこれほどまでじゃないにせよ、割りとこういう無茶苦茶な屁理屈で我を通そうとする人っているよね。

本作は勿論南極…ではなく、ニュージーランドでロケしたとの事だが、十分過ぎるほどの過酷なロケでそれだけの労力に見合った絵が撮れている。吹雪の光景も凄いが、だだっぴろい青空に真っ白な雪原が延々と続く雪の荒野の方が不気味に感じるから面白い。

日誌とイギリスの探検隊の部分は少しだけ超常ホラー的な要素も残していたけど、純粋な人間の欲望と狂気をそのまま描いた方が変に安っぽくならなくて良かったんじゃないかと思う。結局イギリスの探検隊に具体的に何が起こったのかは分からないままだったが、ハッキリ描かない方が効果的で良いと思うが、もう少し暗示させて絡めて良いのでは。

なんか妙に評価低いけど、決して悪くないと思う。ジャンルが超常ホラーなのかサイコスリラーなのか不明瞭な所が受けないのかな。この終着先が見えずに全く曖昧模糊としている雰囲気が本作にマッチしていると私は思ったのだが。
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