荒野の狼

ブルークリスマスの荒野の狼のレビュー・感想・評価

ブルークリスマス(1978年製作の映画)
5.0
SF性と社会派ドラマの要素を兼ね備えた133分の映画。前半は、複数のストーリーが同時進行していく中で、国営放送の報道部員の仲代達也が主演で、青い血液を巡る国際的陰謀の解明に国内外を駆け巡る。後半は、国防省の勝野洋が、床屋に勤務する竹下景子とその兄の田中邦衛との交流を通して、冷徹な硬派な男が葛藤していく様子を描く。
特撮も、アクションシーンもほとんどないのだが、国内外の陰謀を取り巻く、緊張感が高く、関連人物は殺されたり(消されるという表現が相当で、自殺などの名目で排除されていく。残虐なシーンがないだけに恐ろしい)、“植物人間“にされたりする(映画では、脳の前頭葉を中心とする外科的切除術の”ロボトミー“という用語が使われている。ロボトミーは、厳密には人を植物状態にする手術ではないが、不気味さを伝えるには説得力がある)。随所にナチのユダヤ人の虐殺の様子などが盛り込まれ、政治的謀略や報道規制の恐ろしさのメッセージは強い。
”主演“ということになっている竹下景子は、映画公開時、人気絶頂であったが、本作では、出演時間は短いものの清楚な美しさが、薄幸な境遇に同情を誘い、映画の中で一番の輝き。実質上の主演の仲代と助演の勝野は人間の弱さと強さを演じきっており、他の共演陣も豪華。出演は数分しかない岸田森と天本英世は、青い血液の母子を”処分“するように指示する国家側の怪人物を不気味に演じ、はまり役。早逝した沖雅也は、勝野の国防省の後輩で、UFO探索の過程で失踪する役割だが、テレビシリーズ”太陽にほえろ“で出演が前後した勝野と沖の共演は、オールドファンには堪らない。
倉本聰の脚本で、竹下と田中が出演するので、”北の国から“のようなものを期待する人はいるかもしれないが、人間ドラマの要素は少なく、妥協のない結末も含めて、後味は決して良くないが、社会派の硬派なメッセージ性の強い名作といえる。
荒野の狼

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