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球形の荒野のオーウェンのレビュー・感想・評価

球形の荒野(1975年製作の映画)
3.0
この映画「球形の荒野」は、松本清張の同名の推理小説を忠実に映画化した、社会派サスペンス・ミステリーだ。

久美子(島田陽子)は、新聞記者の添田(竹脇無我)との婚約を亡き父に報告するため、父がこよなく愛していた大和路を訪れる。

そこの寺で、拝観者の芳名帳に父とそっくりの筆跡を見つけたが、どうしたわけか翌日には何者かによって破り取られていたのだ。

久美子の父親の野上(芦田伸介)は、第二次世界大戦の末期、日本を救うため妻子と祖国を捨てて、連合国軍側と極秘に和平工作を進めた外交官だったのだ。

表向きは任地で死んだことになっていたが、娘に会いたいあまり、17年ぶりで故国の土を踏んだのだった。

野上のこの突然の帰国は、当時の軍関係者に波紋を呼び起こすことになるのだった。野上の元部下が殺され、旧軍人が自殺したりしたのだ。

破り取られた芳名帳---殺人---自殺と続くこの一連の事件に、婚約者の父との繋がりを感じ取った添田の取材活動がやがて始まり、謎のベールが一枚、一枚はがされていくことに------。

サスペンス仕立てになっているが、戦争に弄ばれ、荒野に押しやられて息をつめて生きる男と、安泰を貪る現在の日本とのギャップを通して、戦争の告発に迫った社会派のドラマなのだ。

ラストの父親と娘の対面シーンが、悲しい人間の運命のいたずらを象徴していて、胸に迫るものがある。貞永方久監督の演出は、原作の重みをよく燃焼させていたと思う。
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