半兵衛

摩天楼ブルースの半兵衛のレビュー・感想・評価

摩天楼ブルース(1979年製作の映画)
4.0
全体的にみみっちいスケールの小さいアクションドラマなんだけれど、ジョン・フリン監督のテンポの良い演出と深い人間描写、ニューヨークの薄汚れた裏町を魅力的に撮っているカメラによりレベルの高いアクション映画に仕上がっているのが凄い。

やっていることはたちの悪いヤンキーレベルなのに安藤昇みたいなカリスマ的なリーダーによって「悪」としての存在感を放ち、自分達のもとを離れる仲間への優しい対応や街の人から白眼視される描写などで孤立した共同体であることが示唆されるギャンググループや、かつてはスポーツなど自慢できる能力があったが若さを失いただただギャンググループの暴力に蹂躙される挫折した市民もこの映画に深みをもたらす。

あと船員として次の仕事が見つかるまで一時的に舞台となる街に住んでいるジャン演じる主人公が「木枯らし紋次郎」みたく流れ者の自分には関係ないとギャンググループの暴力を見て見ぬふりをしていたのに、交流を深めた人たちに危害が及ぶと決まった船の仕事を捨ててまでギャングたちと戦いに向かう姿が激熱。そんな彼に影響を受けてギャングたちになすがままにされていた市民が立ち上がって乱闘に参加していくのも最高。

終盤でのギャングのボスと主人公によるアパートを上り下りしながらのアクションがスケールが小さいのに階段や陰影を使った撮影により興奮させるアクションシーンに。あとアクションの定番である拳銃をめぐってのやり取りもきちんと押さえているのが好印象だし、その拳銃で安易に決着をつけないのも◎。

ラストは大団円だけど、ボスが逮捕される姿を見たギャングの一人が車内で目を潤すラストが単なる勧善懲悪でない複雑な余韻を残す。

フリン監督はコミカルな描写が上手くて、主人公が元ボクサーで今はホームレス同然の暮らしをしている老人や孤児と下水道にいる大ワニという都市伝説で盛り上がったり、主人公が孤児にポルノ映画館に騙されて連れていかれたり(「子供一枚」「そんなのない」という孤児と映画館の受付とのやりとりがまた…)ヒロインのテレサ・サルダナが初めてやるボウリングでドタバタする様に爆笑。

『ゴッドファーザー』で殺し屋だったレニー・モンタナの、優しくもギャングの横暴に怒り老いた体に鞭うって立ち向かう熱演に泣く。

ジョン・フリン監督は日本の任侠映画が好きみたいで、この映画も結構影響を感じさせる。ただ主人公のキャラといい周囲の人とのとぼけたやり取りといい鶴田浩二よりも『網走番外地』の高倉健に近いかも。
半兵衛

半兵衛